2016 Fiscal Year Research-status Report
オセアニアにおけるポストコロニアル文化形成と先住民移民文学―環境・共同体・芸術
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25370415
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
小杉 世 大阪大学, 言語文化研究科(言語文化専攻), 准教授 (40324834)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | Janet Frame / Colin McCahon / Kathy Jetnil-Kijiner / マーシャル諸島 / 医療の暴力 / 冷戦文学 / 鉱山開発・森林伐採・地球温暖化・非核南太平洋 / マオリ |
Outline of Annual Research Achievements |
前年度の調査に基づき、オセアニアの環境芸術について口頭発表を行い、所属機関発行の機関紙掲載の論文において、オセアニアの植民地化と現在の環境問題をテーマとする現代芸術家たちの写真、絵画、ガラス造形、舞台芸術などを、タヒチ文学やアボリジニの戯曲(Ngapartji Ngapartji、Stolen)などとも関連づけて論じた。Claudia Pond Eyleyのモルロアでの核実験をテーマとする絵画やインタビュー集、フィジー系ニュージーランド人演出家Nina NawalowaloのMarama、サモア系マオリの芸術家Lonnie Hutchinsonの核実験や生態系の変化をテーマとした作品、マラリンガでの核実験で舞い上がった砂が熱でガラス化し放射性鉱石になる瞬間を表象したアボリジニのガラス造形作家Yhonnie Scarceの作品、ブーゲンヴィル出身オーストラリア在住のTaloi Haviniのパングーナ鉱山と紛争の時代に生まれた若者たちを表象した写真作品、マオリの芸術家Natalie Robertsonのワイアプ川流域の森林伐採がもたらす影響をテーマとする作品、マーシャル諸島の女性詩人Kathy Jetnil-Kijinerの詩の朗読パフォーマンスなどを論じた。3月発行の共著の執筆章では、Janet Frameの小説と詩に表象される南太平洋から見た冷戦期の核の世界を、画家McCahonやマオリ詩人Tuwhare、オーストラリアに移住したイギリス人作家Nevil Shuteのディストピア小説などにも触れながら論じ、精神病院体験に基づく初期の小説に描かれる医療の暴力に対する抵抗と冷戦期の体制と核の破壊的な力に対する批判を重ねて論じている。今年度は、福島原発事故をテーマとする壷井明の連作パネル画《無主物》や富山妙子の震災と原発をテーマにした絵画ほか、環境をテーマとする日本の現代芸術家の作品にもふれる機会があり、現代オセアニアの環境芸術や文学との関係性を考察することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度は半年間のサバティカルを利用して、現地調査や資料の収集をおもに行ったが、今年度はこれまでの調査で得た情報を共著2冊と論文1本の発行と国内での学会発表1回において形にすることができたほか、H27年10月より始まった国立民族学博物館の共同研究プロジェクト(放射線汚染をめぐる「当事者性」に関する学祭的研究)のメンバーとして、学問分野を超えた研究者との情報交換を行いながら、研究会での口頭発表「ニュージーランドから見た南太平洋核実験―仏領ポリネシアとキリバスを中心に」において、本科研および共同科研の研究成果を発表した。翻訳の草稿を準備しているRobert Barclayの小説Melalに関しては、企画書を出版社に提出した。国際共同研究に挙げているUniversity of Western Sydneyは、Alexis Wrightの小説Carpentariaをエスニシティの異なる数か国の研究者の視点から論じた出版予定の共著の企画・編者であるLynda Ng (Adjunct Fellow, Writing and Society Research Centre)の所属機関である。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は科研最終年度(延長申請により研究期間がH29年度末までとなった)にあたるため、国際学会における成果発表を再度行い、研究の成果のとりまとめを行う。次年度はこれまで機会がなかなか得られなかったサモア語の集中セミナーを受けることができるので、今後の新しい研究の基盤づくりをしたい。超域的な視点に立つ本科研の研究課題の遂行には、広範囲にわたる現地調査が必要であるため、申請当初から助成金のほとんどを外国出張費と研究成果発表旅費にあてる構成となっており、海外から研究者や作家を招聘して国際会議を行ったり、出版費用を計上する余裕はなかったが、次回申請する新たな科研では、本科研の成果に基づき、これまでに築いたネットワークを活かして、書籍の出版や国際会議などの開催を企画したく、本科研の最終年は、研究のとりまとめ、翻訳草稿作りと同時に、さらに新しい共同研究を立ち上げる可能性を考察する準備期間としたい。
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Causes of Carryover |
最終年度に予定していた国際学会発表を3年目に繰り上げたため、最終年度は3月の海外調査と国内学会発表のみを行う予定であったが、研究を進めるうちに新たな情報を入手し、国内出張が増えたことと、次年度に参加したいセミナーや成果発表を行いたい国際会議の開催情報を得たため、3月の海外調査をとりやめ、1年間の研究期間延長を申請し、次年度により包括的な形で成果発表を行うため、今年度の助成金の一部をとりおくこととした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
国際学会に参加し成果発表を行うためと、ハワイ大学およびサモアでの集中セミナーの受講などに使用する予定である。
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Research Products
(8 results)