2013 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
25370416
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
|
Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
安元 隆子 日本大学, 国際関係学部, 教授 (40249272)
|
Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
Keywords | チェルノブイリ / ベラルーシ / スベトラーナ・アレクシェービッチ / 『チェルノブイリの祈り』 |
Research Abstract |
今年は3.11から3年が経過したにもかかわらず、未だ避難民は8万人といわれ、福島原発事故後の処理は進んでいない。こうした不幸な事故から私たちは何を学び、今後どう生きるべきなのか。原発についての科学的な視点とは別に、この事故が私たちにもたらす意識の変化を考える際、原発史上最悪と言われたかつてのチェルノブイリ原発事故を人々がどのように受けとめ、文学者たちがどのように描いたのかを検証することは、今後の日本人の生き方を考える上で重要なことである。こうした意義に基づき、研究を開始した。 今年度は、チェルノブイリ原発事故で最も被害が大きかったベラルーシの作家、スベトラーナ・アレクシェービッチの『チェルノブイリの祈り』を中心に研究を進めた。人々に内在する英雄思想や差別意識などを顕在化させたほか、師・アダモービッチから学んだ「証言集」という方法について、アダモービッチの作品に目配りしつつ、原爆やホロコーストなどの証言との比較を試みた。また、スベトラーナの他の作品の中での位置づけを行った。そこには旧ソ連の体制に抗する共通した主張が認められるが、他作品に比べ、証言の配列方法に強烈な作者のメッセージが込められていることを提示した。戦争と重なる記憶についても、旧ソ連圏の様々な民族紛争が複合的に内在していることを明らかにした。以上の成果は、7月の比較文学会東京支部会例会で研究発表を行った。 大学の仕事の関係で、ベラルーシへの文献調査が3月になってしまったが、国立ベラルーシ大学文学部を訪問し、ベラルーシにおけるチェルノブイリ文学の状況についてタチアナ教授にご教示いただき、アダモービッチの貴重な文献も頂戴した。また、国立図書館では、日本では探すことのできなかったものを含めてチェルノブイリ文学リストの作成資料を集め、また、主要な文学作品も収集することができた。今後、これらの作品の読解を進めていきたい。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は、主にスベトラーナ・アレクシェービッチを研究する予定であり、成果は、研究発表1回と論文1本にまとめ、ほぼ、計画通り達成することができたと考える。ただ、ベラルーシへの調査が大学の仕事の関係で、夏休みではなく、3月の春休みになってしまったために、現地調査の時間を十分に取ることができなかったことが悔やまれる。また、その際に集めた文献資料をまとめ、読解することが今後の課題として残っている。ロシア語のものはよいとしても、予想以上にベラルーシ語のものが多かったため、時間がかかると予想される。なお、すでに作品を読解したものについて、まだ論文にまとめていないので、急ぎたい。
|
Strategy for Future Research Activity |
今年度は、25年度の積み残しである、ベラルーシの文学の読解を進めながら、研究計画に基づき、ドイツのグードルン・パウゼヴァングの『みえない雲』を中心に調査を進める。特に、ドイツの原発政策の背景にある、憲法意識や、倫理観などの醸成過程を中心に調査考察する。『みえない雲』がいかに享受されたかについては、日本では限界があるので、やはりドイツの図書館に行って調査したいが、予定していた夏季休業中は学会発表が重なり、大学の仕事もあるため、春期休業に変更する可能性がある。研究成果を口頭で発表しても論文にまとめる機を逸してしまうことが多々あるので、口頭発表したらすぐに活字にまとめることを心がけて、研究を進めていきたい。
|
Research Products
(2 results)