2014 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
25370431
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
越智 正男 大阪大学, 言語文化研究科(研究院), 准教授 (50324835)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 類別詞 / 名詞句 / 否定指向性 / 数量詞遊離 / 空主要部 / 日本語 / 中国語 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度の研究実績の概要は以下の通りである。 1. 海外研究協力者であるC.-T. James Huang氏との共同研究の成果を国際学術誌において発表した。その骨子の1つは、日中の類別詞表現の中で、日本語の後置型類別詞表現のみが類別詞表現の統語構造の内部における義務的な移動を伴うというものである。この「義務的な移動」とは、類別詞主要部の補部に基底生成される名詞句が類別詞句の上位に位置する(名詞的)機能範疇主要部の指定部へ移動するというWatanabe (2006)の提案を採用したものである。 2. 上記の仮説の検証を目的として、類別詞と否定指向性(negative sensitivity)に関する調査に着手した。これは、数詞の「1」と類別詞の組み合わせが「最小化詞(minimizer)」の機能を担う事例に関する調査である。本年度は前置型類別詞を用いた表現(「1冊の本も買わなかった」)、後置型類別詞(「本1冊買わなかった」)及び遊離型(「本を1冊も買わなかった」)という3つのタイプの最小化詞表現に関するデータを収集し、さらに前置型及び遊離型においてはとりたて詞の「も」が必要であるのに対して後置型では「も」が必要ないという言語事実に関して上述の共同研究の成果に基づく仮説を構築するに至った。この仮説によれば、日本語には空のとりたて詞(音形のない「も」のようなとりたて詞)が存在し、後置型最小化詞の場合にこの空主要部が前述の名詞句補部の移動によって認可される(そして前置型及び遊離型ではそのような移動がないために認可されない)。これは、Stowell (1981)以降の空主要部の統語的認可に関する研究(特にBoskovic (1997)による知見)に基づくものである。現在この研究成果を論文にまとめているところである。 3. 類別詞表現と共起する「の」(例:「3冊の本」)の役割について格理論の見地からの考察を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
上述の通り、本年度は前年度までの研究において構築した類別詞表現の統語構造の検証のために類別詞表現と否定指向性に関する調査を研究の中心に据えた。その結果、研究協力者のHuang氏との共同研究の成果の妥当性に一定の裏付けが得られたと考えられる。その一方で、本年度の研究成果は上述の共同研究の成果の一部に再考を促すものでもあった(詳細は以下の「今後の研究の推進方策」をご参照いただきたい)。この点のさらなる検証のために、若干ではあるが研究の推進に遅れが出ている。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度中に収集した最小化詞に関するデータには興味深い疑問点を提示するものも多くある。例えば、調査の過程で、後置型の最小化詞が付加詞的位置にのみ生起し、項の位置には生起しないという一般化が浮かび上がってきた。さらに、この一般化が上述の共同研究の成果(特に特定性(specificity)に関する研究成果)から導き出せるのではないかという理論的方向性が見えてきた。これは以下のようなものである。前述の共同研究において後置型類別詞表現が特定性の解釈を生むという指摘を行ったが、最小化詞としての類別詞表現は「スケール解釈」の出発点としての最小の数量を表しているに過ぎない(つまり特定性の解釈ではない)。そうすると、後置型類別詞表現の統語と意味に関して、項の位置に生起する場合には特定性の解釈と結びつき、付加的位置に生起する場合には非特定性の解釈と結びつくという、いわば「棲み分け」のような現象が起きているのではないかという仮説が浮かんできたのである。さらに、共同研究においては後置型類別詞表現の特定性の解釈を類別詞表現の内部構造における名詞句補部の義務的移動に起因するものとして捉えていたが、この仮説の再考が必要になってきた。本年度の研究によれば、最小化詞としての後置型類別詞表現においても同様の名詞句の移動が起こっているからである。次年度ではこれらの理論的問題の探究を含めて、本プロジェクトの最終的な提言をまとめる予定である。
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Causes of Carryover |
海外での国際学会での成果発表を視野に入れ研究計画を建てていたが、その予定が若干ずれこんだためである。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
本年度の成果発表予定が若干遅れた点は否めないが、研究の進度に大きな影響はないと考える。最終年度にあたる次年度においては成果発表により重点を置いた資金計画を立てる予定である。
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Research Products
(4 results)