2013 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
25370437
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
|
Research Institution | Atomi University |
Principal Investigator |
酒井 智宏 跡見学園女子大学, 文学部, 助教 (00396839)
|
Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
|
Keywords | 固有名 / 文脈主義 / 意味の柔軟性 / 分節 / 認知言語学 / 世界認識 |
Research Abstract |
本年度の成果は主として次の二点である。 第一に、自然言語に見られる意味の柔軟性ないし文脈依存性が意味の合成性に対する脅威とならないことを示した。哲学および言語学では、意味の柔軟性が合成原理に対する脅威として捉えられることがあるが、これは意味の分節と合成を混同することにより生じる疑似問題にほかならない。分節とは複合表現との関係において単純表現を取り出す操作であり、合成とは単純表現の意味に基づいて複合表現の意味を計算する操作である。仮に合成原理が存在しなければ、表現の意味を、その構成要素の意味とそれらのあいだの結合様式から計算することができず、そのような言語においては、そもそも語を特定することさえ不可能になる。分節化された言語においては、合成原理は自動的に成り立つのであり、合成原理を守るための装置を組み立てる必要はまったくない。これは、固有名の意味の柔軟性ないいし文脈依存性を示そうとする本研究の基本前提が妥当であることを示している。 第二に、「言語は人間の世界認識の反映である」という認知言語学的な主張が引き起こす哲学的問題を論じた。この主張は外的世界と内的世界の二元論を前提としているが、認知言語学者が外的世界に関する事実と呼ぶものは、実際にはわれわれが解釈したかぎりでの世界の記述にすぎず、同じことを一元論のもとで述べなおすことができる。また、この主張を受け入れれば、言語間の変異はすべて話者の世界認識の違いによるという結論に至る。しかし、この結論は逆説的にも「話者の認識から独立した意味」という客観主義的意味観を帰結しうる。こうした問題を回避するためには、外的世界を言語が解釈するという二元論的図式ではなく、言語が端的に世界の相貌を立ち現すという一元論的図式を採用する必要がある。固有名の意味に使用者の関心が織り込まれているとする本研究の立場と整合的である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、固有名の意味をたんに言語学的に分析しようとするものではなく、その心理的実在性の成立基盤を明らかにしようとするものである。本年度の研究は固有名そのものの分析に先立ち、自然言語の意味の柔軟性ないし文脈依存性の源泉を確認し、言語と世界の二元論という素朴な図式を退けようとするものであった。この試みは成功したと考えられる。 これと並行して固有名の成立条件に関する研究も進めたものの、その成果は一般向けの月刊誌『ふらんす』(白水社)の連載(2013年10月~2014年3月)として公表するにとどまり、学術雑誌への投稿には至らなかった。この点で、当初の計画以上に進展しているとまでは評価できないと考えられる。
|
Strategy for Future Research Activity |
固有名の使用に伴う「関心のあり方」と一般名の使用に伴う「関心のあり方」の違いを明らかにすることに重点を置く。言語を習得する際、当該の名詞に固有名/一般名というラベルがつけられているわけではなく、子どもはただ、目の前の名詞を習得する。それにもかかわらず、人間は固有名と一般名の区別を認識するようになる。これを説明するために、人間の側の関心のあり方により、当該の表現が固有名にも一般名にもなるという図式を描き出す。その際、固有名に関しては、「固有名とは、あるものをユニークなもの、かけがえのないものとして見立てたいときに用いる呼び名である」とする考え方、一般名に関しては、「複数の対象の間に類似性を設定し、カテゴリーを形成するのは、対象の側の「本質」ではなく人間の側の欲求に基づく関心である」とする考え方を発展させ、固有名と一般名の分化が、人間の関心の自由に根ざす現象であることを明らかにする。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
年度内にもう一度海外での学会発表に応募する予定であったが、2013年11月にオーストラリアのグリフィス大学で学会発表を行った際、クイーンズランド州立大学の山口征孝講師より、2014年度中のオーストラリアでのシンポジウム開催および研究打合せの打診があったため、そのために必要な金額を未使用とした。 言語学関連図書・哲学関連図書および消耗品の購入の他、特に次の二件のシンポジウム開催に伴う旅費・講演謝金等に使用する。(1) 2014年9月オーストラリア・クイーンズランド州立大学およびグリフィス大学における語用論関連シンポジウムおよび研究打合せ。(2) 2014年12月早稲田大学におけるPragmatics Meets Semantics Revisited シンポジウム (仮称)。(1)に関しては本研究代表者の渡航費が必要となる。(2)に関しては在豪の研究者および日本国内の研究者を招聘するための諸費用が必要となる。
|