2014 Fiscal Year Research-status Report
句構造の形成と解釈における意味的選択、形態的選択および発話行為整合性の役割
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25370445
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Research Institution | Nanzan University |
Principal Investigator |
斎藤 衛 南山大学, 人文学部, 教授 (70186964)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 比較統語論 / パラメター / ラベリング / 文法格 / 補文の構造と解釈 / 削除現象 / スクランブリング / 項削除 |
Outline of Annual Research Achievements |
日本語文法を特徴付けるパラメターを追究するために、(1) 複合動詞の研究、(2) 句構造と選択制限に関する研究、(3) 文法格の与値メカニズムに関する研究を、計画通りに遂行した。 日本語複合動詞については、昨年度すでに分析を公表しており (共著書『複雑述語研究の現在』, ひつじ書房, 2014年1月)、今年度は、その類型的特徴に焦点を当てて研究を行った。特に、顕著に異なる性質を有する日本語の語彙的複合動詞、中国語の複合動詞、エド語の結果連鎖動詞を比較し、それぞれの性質が、直接的併合、顕在的編入、非顕在的編入という派生のメカニズムから導かれることを論証した。この成果は、共著書 Chinese Syntax in a Cross-Linguistic Perspective (Oxford University Press, 2014年11月) に発表した。句構造と選択制限については、日本語のモーダル、補文標識、談話的小辞の階層性が、形態的・意味的選択と意味解釈の整合性から導かれることを示した論文 "Cartography and Selection: Case Studies in Japanese" を書き上げた。共著書 Beyond Functional Sequence (Oxford University Press, 2015) に掲載される予定である。 文法格の与値メカニズムに関する研究は、Chomsky (2013, 2014) のラベリング理論をふまえることにより、大きく進展した。φ素性一致を欠く日本語では、句構造形成において、文法格と述語屈折がφ素性一致に代わる役割を果たすことを提案し、帰結として、多重格、自由語順などの日本語の特徴に説明が与えられることを示した。この研究は、"Case and Labeling in a Language without φ-feature Agreement" と題する論文として、論文集 On Peripheries (ひつじ書房, 2014年12月) に発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
研究は計画に沿って順調に進んでおり、上述したように、2014年度の研究課題についてはすでに成果をまとめ、公表あるいは公表の準備を終えている。加えて、研究成果を積み重ねる中で、研究そのものが広がりを見せ、予想を大きく超えて展開している。例えば、句構造と選択制限に関する研究を遂行する際に、各種補文や補文標識の分布を考察し、補文の意味解釈を検討したが、「の」を主要部とする補文が事象として解釈され、「と」を主要部とする補文は直接引用の言い換えを表すとの結論を得た。この結論に基づき、言語哲学や意味論における主要な研究テーマである補文の意味表示、補文の指示的不透明性、叙実動詞の分析などについて重要な帰結を導くことが可能であると考えられることから、これらの問題にも取り組みつつ、研究を進めている。この研究の成果の一端は、2014年12月にコネティカット大学、2015年3月にUCLAのコロキュアムにおいて発表し、専門家と意見交換を行った。 また、日本語の特徴の一つである項削除現象については、φ素性一致の欠如に基づく分析を提示していたが、日本語文法格に関する研究成果がこの現象をラベリングの観点から分析し直すことを可能にしたため、現在はこの方向で研究を進めている。すでに従来の分析に対する優位性を明らかにしており、中国語、トルコ語、マラヤマム語、ジャワ語との比較も視野に入れて、分析を精密にしていく作業にとりかかっている。また、この分析を拡張することにより、VP削除、N'削除、スルーシングの分布を捉える可能性も追究しつつある。この研究は、日本語文法を規定するパラメターをより正確な形で提示することを可能にするだけではなく、自然言語における文法格とφ素性一致の役割の再考にも繋がるものであり、来年度も継続して遂行する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
(1) Wh移動、スクランブリング、補文構造、文法格、削除などの個別現象の分析を精密化し、公表する。Wh移動については、日中語比較を中心とした論文の執筆を Language and Linguistics (台湾中央研究院) から依頼されており、これを年内に完成させる。スクランブリングについてはOxford Research Encyclopedias、削除についてはHandbook of Japanese Syntax (Mouton de Gruyter) から原稿の依頼を受けている。 (2) 日本語における補文の統語構造と意味表示に関する研究成果に基づき、事象意味論への帰結を探る。特に、Donald Davidson (1967, 1968-69) の理論を発展させてきたJonathan Bennett (1988) などの分析に鑑みて、言語哲学の議論に貢献することを試みる。研究の概要は、6月に予定されている関西言語学会での講演の中で公表する。 (3) 2015年度が本研究プロジェクトの最終年度となることから、日本語文法を規定するパラメターについての研究成果をまとめる。Linguistic Review (Elsevier) のラベリングをテーマとした特別号に寄稿を依頼されており、まずそこに概要を公表する。同時に、全体像を明らかにする著書の執筆を継続し、できれば2015年度内に完成させる。 この研究を完成させるためには、削除現象に関するさらなる調査と研究が必要となる。特に、項削除における文法格の役割を明確にするために、日中語比較研究、マラヤラム語、ヒンドゥー語の調査が不可欠である。中国語における項削除現象研究の第一人者であるUSCのAudrey Li教授、マラヤラム語研究の中心であるハイデラバードの研究者にご協力いただき、研究を進める。また、φ素性一致を有するスラヴ系言語の項削除とスクランブリングについて研究を行っているコネティカット大学のZeljko Boskovic教授にも、継続して協力をお願いする。
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Causes of Carryover |
研究は、全体的には、計画以上に進展しているが、著書の執筆には多少の遅れがある。このため、校閲謝礼、他言語の分析確認に対する謝礼を来年度に延期して支出することとした。また、今年度は極力、調査・研究に集中することとし、予定していた海外における学会発表も来年度に延期した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
研究協力者との共同研究を継続して行う。(外国旅費) また、項削除の日中語比較に関する研究成果を、中国語研究者が多く集う学会を選択して発表する。必要に応じて、専門的知識の提供 (校閲、分析確認) に対する謝礼も支出する。
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[Book] Japanese Syntax in Comparative Perspective2014
Author(s)
Mamoru Saito (編著)、T.H. Jonah Lin, Keiko Murasugi, Yasuki Ueda, Yoichi Miyamoto, Daiko Takahashi, Duk-Ho An, Yuji Takano, Tomohiro Fujii, Kensuke Takita, Barry Chung-Yu Yang, We-Tien Dylan Tsai, Hideki Kishimoto, Hiroyuki Ura
Total Pages
352pp. 1 (1-24), 5 (117-138) を共著執筆.
Publisher
Oxford University Press
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[Book] Chinese Syntax in a Cross-Linguistic Perspective2014
Author(s)
Li, Audrey, Andrew Simpson, We-Tien Dylan Tsai, C.-T. James Huang, L. Julie Jiang, Francesca del Gobbo, Jo-Wang Lin, Wei-Wen Roger Liao, Yuyun Iris Wang, Gennaro Chierchia, Michael Barrie, Lia Lai-Shen Cheng, Rint Sybesma, Shengli Feng, Mamoru Saito, Alexander Williams, Andrew Simpson, Yang Gu, Jie Guo, 他3名
Total Pages
446pp. Chapter 10 (251-269) を担当.
Publisher
Oxford University Press
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