2014 Fiscal Year Research-status Report
ベルベル語表記体系の変遷をたどり、ティフィナグ文字を再構築して、文法書を作成する
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25370498
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Research Institution | Soka University |
Principal Investigator |
石原 忠佳 創価大学, 文学部, 教授 (10232331)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | ベルベル語諸方言 / Tifinagh Script / ティフィナグ文字 / Abjad / Tamazight / 北アフリカ史 / 古代リビア文字 / ポエニ文字 |
Outline of Annual Research Achievements |
近年モロッコを中心とした北アフリカ各地で碑文が発見されたことにより、「ベルベル語は文字を持たない話し言葉である」というこれまでの定説が覆されることになった。これを機に、[ベルベル文字(テイフィナグ文字)の変遷をたどれば、ベルベル人のルーツをたどることができる]という仮説を拠り所に、平成26年度は以下の課題に取り組んだ。 1)古代リビア文字がどのような過程を経て、ティフィナグ文字へ変遷を遂げたのか 2)ティフィナグ文字が示す母音に、トアレグ系ベルベル人はどのような変種文字で対処したのか。3)abjad とよばれる本来子音のみを表すティフィナグ文字に、母音がアルファベットとして使用されるようになったのは歴史上いつの時代からか。4)標準ティフィナグ文字(Tifinagh-Ircam)を基本に考えるなら、地域格差をもたらしたベルベル語口語の変種は、どのような音韻中和(Neutralizacion) の結果生じたのか。5)ベルベル語本来の語彙ではない借用語の表記に、ベルベル人がティフィナグ文字を使用することがあるのか。
以上の項目に関して、各地のインフォーマントを通して様々な調査結果が得られた。表記法に関しては、まずラテン文字によるものが主流で、時にはアラビア語文字によることもあったが、表記にティフィナグ文字を使用したのは、サヘル地方に居住するごくわずかな数の住民であったことが明らかとなった。いずれにせよ、「統一されたベルベル文字」というものはいずれの次代にも存在せず、それぞれの地域のベルベル系住民が、自らが話すベルベル語の口語を独自の体系に基づいて、文字として残してきたという結論に至った
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
今日まで北アフリカに居住する多くのベルベル系住民が、自らの先祖が日常生活で使用していたベルベル文字(ティフィナグ文字)の存在を認識することなしに、自らの話し言葉をラテン文字やアラビア文字表記で綴ってきました。こうした現状を念頭に置き、昨年に引き続き、今年度もベルベル文字とベルベル語話し言葉の関連性を明らかにする作業を重点的に進めてきました 2014 年3月,拙著『ベルベル語とティフィナグ文字の基礎─タリーフィート語入門─』を刊行して以来筆者のもとには多くの問い合わせが寄せられるようになり、国際アラビア語方言学学会が4年に一度開催する国際会議での拙著の紹介をはじめとして,フランス国立東洋言語文化研究所(INALCO)やモロッコ王立アマズィグ文化研究所(IRCAM)など,ベルベル言語文化研究を手がける研究機関と連携が確立できました。
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Strategy for Future Research Activity |
ベルベル文字を用いた文法書が世界でもいまだ刊行されていなかった理由として、北アフリカ史を通じてベルベル語が直面してきた以下のような変遷をまず指摘できる。北アフリカの先住民であるベルベル人は、アラブ人による征服の過程で、混血によって次第にアラブ化したが、アラブ化の程度を検証する上でまず考慮すべき点は、北アフリカの地域格差である。 地中海に面するモロッコ、アルジェリア、チュニジアなどベルベル系住民が居住してきた北アフリカ諸国とは対照的に、マリ、ニジェールなどアラブ化の進まなかったサハラ地域のベルベル人(トアレグ系ベルベル)がその原型を最も忠実にとどめている事実は言うまでもない。こうしたサヘル地方(Sahel)のベルベル人の言語形態を総括して明らかにすることがかなり困難であるのは、彼らがオアシスを中心に各部族ごとに分散して生活圏を構えているからである。いっぽう7~8世紀にかけてアラブ化の進んだ地中海沿岸に居住するベルベル人の言語は、アラビア語のみならず古くはラテン語、また近年に至ってはスペイン語やフランス語との接触で、語彙面のみならず統語・形態面でも大きく形態を変えてしまった。 今後こうした言語事情を総括して本邦で紹介するとともに、数年をかけてベルベル文字を併用した「ベルベル語辞典」を編纂したい。
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Research Products
(7 results)