2013 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
25370528
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
上野 和昭 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (10168643)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 漢語 / アクセント / 論議 / 新義真言宗 / 補忘記 / 南北音義抄 / 開合名目抄 / 出合 |
Research Abstract |
本研究の目的は、論議書を原本について調査し、そこに記載された漢語アクセントに関する注記を整理して提示することにある。 そのためには、資料となる論議書の原本調査ならびにそこから抽出される漢語アクセントデータの集積とが必要である。 平成25年度は、論議書のうちで中心資料となる『補忘記』について、金井英雄氏旧蔵の貞享版(奥村版)と同(河原崎版、金田一本)の校合を試みて、山田忠雄『迂人孟録』所載の記録と照合を進めた。また、この書の漢語アクセントについて、貞享版をもとにしたデータベースを完成した。現在、貞享版と元禄版とを校合を進めており、元禄版の漢語アクセントデータを、貞享版のそれに合わせることを目指している。 原本調査は、平成25年度中に二度、高野山大学図書館所蔵の貴重書を調査した。このとき閲覧した『仮名声』『四声仮名声』『四声出合読誦私記』『四声当山旧風秘伝書』『論議肝要鈔』などの文献は、その複写写真も入手し、書誌的研究を終えた。これらの文献と『真言宗古字書資料集』所載の影印資料、ならびに金井英雄氏旧蔵の『開合名目抄』(早稲田大学中央図書館蔵)、金田一春彦氏旧蔵の『四声開合初心鈔』『諸声意得私記(相承仮名声雑集名目)』をもって、論議書所載の漢語アクセントデータベースを作成する作業に着手することになるが、平成25年度においてはすべての資料の複写写真を手元に揃えた段階である。 本研究ではまた、高野山・根来寺・南都(唯識宗)・三井寺・延暦寺・泉涌寺ほかの諸寺諸宗における漢語の読み方の違い(四声・清濁など)を整理して、その傾向を明らかにすることも予定している。これについては『南北音義抄』(元禄十二年則隠子序、外題「南北相違集」)の版本(全25丁)という比較資料を入手して、これと『補忘記』との対照に取り掛かったところである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
交付申請書に記した平成25年度の研究実施計画においては、①「論議書の原本調査ならびに影印または翻刻の公開準備」②「漢語アクセントデータの抽出・整理」を予定した。およそのところ研究の進行に特段の遅れはない。 しかし、当初次年度に予定していた高野山大学図書館所蔵の原本調査を、平成25年度に前倒しして実施したことは大きな変更であった。これは、研究を進めるうえで論議書の全貌を先に把握したほうが研究を進めやすいと判断したことによる変更である。これによって、少なくとも検討すべき論議書に一応の目安が得られた。資料の複写写真もほとんどすべて入手が完了した。 つぎに「漢語アクセントデータの抽出・整理」について、基礎資料たるべき『補忘記』貞享版・元禄版ともに本文が必ずしも確定していないことが、研究に着手して判明した。とくに元禄版は総じて刷りが悪く、節博士の判読に迷うことがしばしばであり、白帝社版と秋永一枝氏蔵本とを比較してはじめて分析に足るデータの得られることが分かった。そのうえ貞享版と元禄版との比較研究も徹底的になされたことは未だなく、その必要が痛感されたので、同書が本研究の基礎となる資料であることに鑑み、『補忘記』の研究を先行することとした。 したがって、当初予定した論議書である『開合名目抄』『相承仮名声雑集名目』『四声開合初心鈔』などの公開準備やそこに記された漢語アクセントデータの抽出・整理については、次年度以降の課題としなければならなくなったが、これは作業手順の変更であって、次年度以降の研究に大きな支障をきたすものではない。
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Strategy for Future Research Activity |
①原本調査については、すでに高野山図書館の訪書を終えているので、平成26年度には、『開合名目抄』『補忘記』については大谷大学、龍谷大学、国会図書館などの調査を行い、『南北音義抄(南北相違集)』については、東京国立博物館、大谷大学、京都大学などの調査を行う。 ②『真言宗古字書資料集』所載の漢語アクセントデータおよびそのほかの論議書にみえるデータの抽出・整理を続ける。前年度のうちに『補忘記』のデータ入力はほぼ完了しているので、その書式に合わせて作業を進める。 ③上記計画を遂行するうえで以下のような方策を講じる。第一に論議書訪書の時期を設定するについて校務との調整が必要である。これについては、すでに春学期と秋学期にそれぞれ一週間足らずの訪書期間を設けられるよう時間割を調整した。第二にデータ入力作業については、必要に応じて大学院生などの助力を得ることを考える。ただし内容がきわめて専門的であるから、その場合は十分に点検することが必要である。 ④以上のように対処すれば、研究計画の変更はほとんど必要がない。ただし、資料の影印または翻刻の公開については、所蔵先の許可を得る必要のあること、書誌学的・文献学的調査の終了をまつ必要のあることに鑑み、最終年度に先送りすることも考えなければならない。その分最終年度に予定している分析、すなわち(1)諸寺諸宗によって異なる伝承をしている漢語についての整理や(2)漢語アクセントにおける「出合」の法則についての諸本による記述の整理などを、本年度に先取りして行うことも考えたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本研究計画は3年計画で申請したものであるから、次年度以降の研究に予定される経費が「次年度使用額」として記されたものである。 次年度も国内旅費(文献調査のための訪書旅費)ならびに消耗品費としての使用を予定している。国内旅費は、京都(京都大学、大谷大学、龍谷大学など)、伊勢(神宮文庫)などへの訪書を予定しており、また消耗品費としては仏教音楽関係書、訓点語・字音語の研究書の購入、ならびに資料複写のための支出を予定している。
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