2013 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
25370552
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
|
Research Institution | Osaka Kyoiku University |
Principal Investigator |
寺田 寛 大阪教育大学, 教育学部, 准教授 (90263805)
|
Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
|
Keywords | フェイズ / 照応形 / 一致操作 / 束縛 / 先行詞 / 再帰代名詞 |
Research Abstract |
平成25年度は、再帰代名詞(英語におけるhimselfなど)は先行詞(再帰代名詞が指し示している名詞句)の移動によって出来るコピー(文構造においてある位置から名詞句などが移動しているように見える現象は、実際の移動ではなく、項目を別の位置に複写するという考え方)であるという趣旨の分析と一致操作Agree(文の派生の途中で文の構造が派生され、その中に含まれる様々な素性のうち、関連するものどうしが互いに素性の値をやりとりするという操作のこと)にもとづく分析を比較検討することを予定していた。一方は、移動の残すコピーは再帰代名詞や代名詞として具現されるという分析であり、もう一つは、再帰代名詞がChomsky (2000)などで提案されているフェイズ(派生の途中で形成される構造的単位)ごとに解釈されるとする分析である。このような当初の予定を念頭におきながら、今年度は、照応形が生成文法におけるミニマリストプログラムの理論において、これまでの先行分析を概観し、その問題点を指摘し、それをもとにして今後のトップダウン式派生の観点からの代案を提示するための下地を作ることを計画した。これまでの一致操作やフェイズを用いる先行分析として、取り上げたのはフェイズ内部での一致操作によるHeinat (2008)他の分析、一致操作に寄らないフェイズ内部で先行詞から束縛されるとするCharnave and Sportiche (2013)の分析、一致操作と再帰標示に基づくReuland (2011)の分析などがある。Heinat の分析については、日本英文学会の関西支部の学術誌に書評の形で内容を紹介し、その問題点を指摘した。フランス語をもとにして議論を展開するCharnave and Sportiche (2013)の分析については、大阪教育大学英文学会の学術誌に、英語の照応形について検証した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成25年度は、再帰代名詞にとっての先行詞が移動することによって出来るコピーが再帰代名詞になるという趣旨の分析と一致操作Agreeにもとづく分析を比較検討することを当初の目標としていたが、研究を進めるうちに、より最新の分析が重要性を持っていることに気が付き、予定を修正し、フェイズにもとづくものの一致操作によらない再帰代名詞の分析をおこなっているCharnave and Sportiche (2013)による最新の研究について検討することにした。まずは一致操作に基づくHeinat (2008)らの分析を検討し、その問題点を考察した。その考察の一部を、日本英文学会関西支部から出されている学術誌に書評の形で発表することによって研究成果を発表することができ、順調に研究を進めることができたと考えている。さらに研究を進めて、上述のCharnave and Sportiche (2013)による最新の研究を、英語に関して検証することで、先行研究でどのような扱いがされてきたかを振り返り、通常照応形あるいは純粋な照応形 (plain anaphor) の現れる環境について理解を深めることが出来た。Charnave and Sportiche (2013)が通常照応形に取り上げていなかった環境における通常照応形が英語に存在することも知ることができた。その成果を大阪教育大学英文学会誌に発表した。先行詞が移動することによって残されたコピーが再帰代名詞となるとする先行分析の吟味については、次年度以降に取り組むことにした。このように研究の順番を修正を行ったものの、重要な分析について検討を進めることが出来たため、概ね順調に研究を進めることが出来たと言える。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成25年度には、先行詞が移動することによって残されるコピーが再帰代名詞として解釈されるというKayne (2002)などの先行分析や、フェイズと再帰代名詞の移動と再帰性にもとづく束縛理論と連鎖条件とを組み合わせたReuland (2011)の分析についてその有効性と問題点を検討することができなかった。これらの分析について検討するためには、より広範なデータを集積する必要があると考えられるため、研究書からのデータやインフォーマントからの調査をもとにして、データ収集を行う予定である。近年では、これまでの移動にもとづく分析や一致操作とフェイズ理論にもとづく分析だけでなく、文の構造を構築するための項目どうしを結合する操作に付随して行われているとされるラベル決定のための操作、すなわちラベル付けという操作が注目されている。たとえば、動詞と目的語名詞句とを結合することでできる{動詞, 目的語}という全体の構造は動詞句というラベルが貼られることになる。では、再帰代名詞が文の中に結合される場合には、再帰代名詞にはどのようなラベルが貼られることになるのかという疑問が生じるからである。このラベル付けという観点からも、再帰代名詞という位置づけを見直してみる必要があると考えられる。さらに、これらの先行分析を検討した後に、代案となるトップダウン式の構造構築にもとづく再帰代名詞と先行詞との依存関係構築という仮説を検証し、その優位性を支持することに研究を進めていく予定である。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
備品として購入した書籍は、円とドルのレートが変動することもあり、正確な価格を把握することが困難であるため、余裕をもって購入しなければならないと考えていた。残高が3000円を下回り、購入できる専門書はなく、そのほかの備品や消耗品についてもすでに購入したため、残高をゼロにする必要がなかった。 3000円を下回る残額であり、使用計画に大きな変更が生じる金額ではない。そのため、消耗品などの安価な物品の購入に充てる予定である。
|