2014 Fiscal Year Research-status Report
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25370552
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Research Institution | Osaka Kyoiku University |
Principal Investigator |
寺田 寛 大阪教育大学, 教育学部, 准教授 (90263805)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 照応形 / 代名詞 / 一致操作 / 束縛 / 先行詞 / 同一指示 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、再帰代名詞を代表とする照応形と人称代名詞を代表とする代名詞類の分布について、考察した。当初の予定では、代名詞類は、先行詞が移動する結果として、生み出されるという分析を検討することを予定していたが、そのためには、Hicks (2009)やKoster (1987)らの先行研究の問題点を検討する必要性が生じたため、予定を変更した。照応形と代名詞類の相補的な役割分担については、Hicksでフェイズ理論を用いた分析が提案されている。代名詞に与えられる強勢(stress)の面から考察すべきであるという見解をHicksが提案しており、代名詞に強勢が与えられるときとそうでないときで、代名詞が先行詞を取れる統語的な領域に違いがあるという分析である。Koster (1987)で取り上げられているデータをもとにして、筆者はHicksの分析に問題点があることを明らかにしようとした。そして、代名詞だけに統語領域の違いがあるというHicksの分析の代案として、再帰代名詞は代名詞に置き換わることができるという提案を行った。そのような交替には、強勢が関与しており、照応形の形式が代名詞に置き換わるときにのみ、代名詞には強勢が置かれるという分析を行った。音韻論における、代償延長に類似した現象であると捉えた。さらに、この照応形と代名詞の交替が起こっていると分析した事例に関して、言語習得の点からもデータを取ることにした。英語を外国語として学んでいる日本人の大学生にアンケート調査を行い、代名詞の先行詞を日本人学習者が適切に策定できるのかを検討した。英語学習者は、交替が起こる環境においては代名詞の分布を学習していないことを明らかにした。このアンケート結果は、残念ながら、今年度の分析を支持するといえるものではなかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の予定では、代名詞類は、先行詞が移動する結果として、生み出されるという分析を検討することを予定していたが、両者の分布の問題を追究しておく必要があると考えたために、当初の予定を先送りすることになった。しかし、代名詞の分布と強勢の現象に取り組むうえで、そもそもの目的である、トップダウン式の代名詞の分布の仕組みを明らかにするうえで、トップダウン式の代名詞が派生に組み込まれるための仮説を形成することにつながった。しかしながら、言語習得のデータは、必ずしもこれを支持するものとは言い切れず、可能な分析を示唆するだけにとどまっている。来年度は、代名詞類の現れが先行詞の移動の結果であるとする分析の問題点を検討するという当初の課題に取り組み、今年度の分析を指示できるような証拠を提示することを目標とする予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度には、先行詞の移動のあとに作られるコピー構成素が代名詞として具現されるというKayne(2002)の分析の問題点を考察することを課題としている。それだけでなく、Reuland (2011)の研究において、再帰述語という理論的装置が仮定されており、その正体は釈然としていないため、この問題についても考察を広げたい。再帰述語なる位置づけは、ラベル付け計算法から導かれる可能性の正当性を考察したい。再帰述語は、他動詞Vと目的語DPが併合されてできる{V, DP}であり、その集合体は動詞の性質を引き継いだVPとしてのラベルを与えられる。このVPがさらに主語名詞句DPと併合され、{DP, VP}なる構造が生成される。この構造体は、両者の素性の一致を通じて、全体のラベルが決定されなければ、ラベルの決定不全により派生が破綻する。その際に、ラベル計算上によって、動詞の目的語に再帰代名詞が現れるため、動詞との間に再帰素性を共有することにより、一致を結ぶことでVPは再帰素性を投射し、さらに主語と再帰VPとが併合される際には、主語との間で再帰素性を共有する。動詞はこのようにラベル付けによって再帰述語としてのラベルをもつという分析を提案する。このような分析と、平成26年度に行った、トップダウン式の派生や、代名詞類と再帰代名詞の交替分析との整合性を検証する。
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Causes of Carryover |
次年度使用額は、39円であり、この金額で購入できる備品は非常に少ないため、次年度に繰り越すことになりました。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度使用額が大変少額ですが、物品費に組み込んで使用します。
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