2015 Fiscal Year Research-status Report
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25370552
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Research Institution | Osaka Kyoiku University |
Principal Investigator |
寺田 寛 大阪教育大学, 教育学部, 教授 (90263805)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 照応形 / 代名詞 / 一致操作 / 束縛 / 先行詞 / 同一指示 / 付票貼付 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、再帰代名詞と代名詞が束縛条件以外の方法で認可される可能性について研究を行った。特に、Cecchetto and Donati (2010, 2015)で示唆されている付票貼付(labeling)理論分析を吟味し、その妥当性と問題点について考察を行った。付票貼付とは、統語構造を構築するための統語操作が適用された場合に、2つの構成素を結合して作られた統語体が解釈を受けるために、その範疇を決定しておくことである。この付票貼付の操作が代名詞の解釈にも役割を果たすというのがCecchettoらの分析である。彼らの分析では、(再帰)代名詞が文中のある要素を先行詞として指示する場合には、束縛原理が課せられ、それを満たさねばならないというこれまでの分析に代わる考え方として、代名詞が統語体に付票を貼りつけなければ、代名詞が機能を果たさないことになるという。しかし、代名詞の付票が統語体に与えられることは、統語体がもつはずのない誤った付票が貼りつけられることになるため、そのような付票貼付は排除される。この分析を検証していく上で、いくつもの理論的経験的な問題が生じることを明らかにした。すなわち、代名詞の主要部である決定詞が統語体に付票を与えても誤った付票とは言えない場合が存在する。このような問題点から、付票貼付によるCecchettoらの分析は維持できないものであると結論付ける。今年度の研究では、付票貼付を用いる案ではなく、代名詞の指示を代名詞のもつ素性とその一致操作とトップダウン式の構造構築から説明できる可能性を追求した。それにもとづけは、統語操作は動詞が構造に取り込まれる際にもつ、同一指示素性が依存要素との間に結ぶ検索関係(probing)によって指示関係が決定されるという主張を行い、言語事実からこれを裏付けた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度までに、代名詞にとっての先行詞が移動する結果として、代名詞との依存関係が生み出されるという分析を検討することができなかったため、昨年度の研究は予定よりもやや遅れていると判断した。しかしながら、このような研究を進めていく前に解決しておかねばならない問題があると考えたため、予定を変更して、まずは近年の重要な研究課題である付票貼付に取り組んだ。そこで代名詞の束縛との関連で付票貼付に関する問題を取り扱うことにし、そしてその結果、代名詞と先行詞の検索関係および一致にもとづく代案を提示し、これを検証することができた。束縛理論を用いることなくトップダウン式の構造構築の枠組みの中でどのように代名詞の分布を予測することができるかという当初からの研究課題に答えを出すことができた。代名詞にとっての先行詞が移動する結果として、代名詞との依存関係が生み出されるという分析に検討するための準備ができたと考えられる。このため、研究の達成度は順調に進んでいると結論できる。
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Strategy for Future Research Activity |
代名詞とその先行詞との関係は、動詞のもつ同一指示素性によって生み出される照合関係であるという平成27年度の研究で得られた新たな見方をもとにして、これまでの分析で提案されてきた先行分析と比較検討を行い、同時に言語資料に照らし合わせる。先行詞の移動のあとに作られるコピー構成素が代名詞として具現されるというRichard Kayne(2002)の分析の問題点を考察したり、Eric Reulandの研究における経済性からの代名詞の取り扱いについて考察し、空の照応的代名詞と呼ばれるPROが先行詞との間に移動関係を用いて説明されるというNorbert Hornsteinの分析を検証することなどがそのような比較検討に含まれる。このような作業を行う際に、代名詞の依存関係には線形語順が関係するのか否かという古くからの課題に取り組む必要があると思われるので、その点についても考察しなければならない。
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