2013 Fiscal Year Research-status Report
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25370778
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | The University of Tokushima |
Principal Investigator |
衣川 仁 徳島大学, 大学院ソシオ・アーツ・アンド・サイエンス研究部, 准教授 (10363128)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 日本中世 / 宗教暴力 / 祈り |
Research Abstract |
本年度は日本中世の民衆にとって宗教がいかなる意味を持っていたのかを考えるための一つの方法として、戦争における宗教の祈りが果たした役割を再検討した。戦争は人々に身体的・精神的なダメージを与えるものであり、そこからの回復や平和を願い人々にとっての宗教がどのような歴史的比重であったのかを明確にすることは、中世民衆と宗教との関係を知る上で不可欠だと考えられるからである。 まずは中世の戦争(ただし、寺院間紛争や強訴も対象とした)において求められた祈りの実態を明らかにするため、戦時の人的・物的被害について検討し、祈りを実践するための環境は戦時には整いにくいものであったことを確認した。加えて日本中世の寺院では祈りと暴力の使い手が重複することがあるため、祈りの人材不足の状況も生まれやすかったことを指摘、それらを踏まえて戦時の祈りは脆弱であったと結論づけた。また寺院間紛争での軍事動員に関する史料を検討し、そこで突きつけられた現実的な要求は祈りではなく軍事力であったことを明らかにした。 以上のことから、戦争に対する宗教(日本中世においては主として仏教)が平和に対してみせた貢献はそれ程大きくなかったのではないかと結論づけた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
日本中世の民衆と宗教の関係を探る上で、宗教が果たす役割の重要な部分である平和・安穏機能を重視し、その対極にある戦争時における宗教の役割を考察したことは、当初の計画通りであると考える。例えばテーマとしては、「中世民衆が宗教(旧仏教)をいかに生活に取り入れていたか」に沿った研究計画を立てていた。具体的には平安期における国家の宗教政策を検討しつつ、その支配の下で生活する民衆の心性を明らかにしたいと考えていた。より具体的な史料としては、①在地社会での祈りに関して②民衆の関心を引くための宗教芸能について③勧進・知識に関して④霊験に関して、という具合である。実際には、戦争に関わる部分に限定してはいるものの、ほぼクリアできている。また扱う時期については新羅の賊難といった平安初期の事例も含めることができているし、素材としても六国史を検討することも行った。ただし、勧進・知識についての情報収集や、民衆と宗教芸能との関係などについては、テーマを戦争に限定したために言及することができなかった。今後はより民衆に近い史料を検討する予定であるので、その中で考察対象としていきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の方針は、研究実施計画に沿って進めていく予定であるが、25年度の研究推進の中で浮き彫りになった課題への対応も取り入れたい。具体的には、中世民衆の生活に関わる文書史料の内、土地や所職など権利に関する部分と宗教的な文言を連ねて神仏への崇敬を強調する部分とに分けることができるのではないか、だとすれば生活の中でのこうした〝使い分け〟の中に、民衆の宗教観が表れているのではないか、という点である。こうした点への対応は、当初の予定にも含めていた文書史料の収集・考察の幅を広げることで対応できると考えている。それ以外の〝生活思想〟に関わる部分では、寺院縁起・在地社会での祈り・芸能関係・霊験など、当初の予定通り進める方針である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
収集した資史料を保存するための文房具を物品費として計上していたが、記憶容量が十分であるとして安価な物品を購入したため。 主として「中世民衆・思想関係図書」1式の購入(物品費)に充てることとしたい。
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