2013 Fiscal Year Research-status Report
フィリピン人エリートから見た「近代発展としての米国植民地支配」に関する研究
Project/Area Number |
25370931
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
鈴木 伸隆 筑波大学, 人文社会系, 准教授 (10323221)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 植民地国家 / 米国植民地官僚 / フィリピン人エリート / フィリピン大衆 / 公共プロジェクト / リベラル / 寛容さ |
Research Abstract |
本研究の目的は、20世紀初頭に始まる米国によるフィリピン植民地支配を対象として、一般に「近代発展」や「寛容」であったと米国植民地主義を正当化しようとする政治言説を脱構築し、支配と被支配という不平等な権力関係に内在する矛盾を解明することにある。とりわけ、米国植民地体制下で、伝統的なフィリピン人エリートが「自由」と「平等」を標榜する植民地国家と協調関係を結び、その帝国理念に同調することで、新たな国民の代表者へと転進を図る背景には、国民的連帯を呼びかけながらも、自己の権益を拡大化しようとするハビトゥスが潜んでいる。そうしたねじれに着目し、米国が唱導する「自由」に共鳴する一方、大衆との共存意識が希薄なエリートが彼らに対して「自由」を強制しようとする二面性を明らかにすることに主眼を置いた。 本年度は、特に米国植民地体制下での3つの主要アクター(米国植民地官僚、フィリピン人エリート、フィリピン大衆)の役割と、公共プロジェクトに対する思惑や利害関係を、多元的植民地空間の中から分析した。方法としては、国政・地方レベルのエリートの経歴を、回顧録、紳士録、オーラルヒストリー、議会議事録、総合雑誌等を用いて、専門性、言語、教育水準、経済基盤に見る特徴を分析した。その結果、エリートと大衆間には著しい「文化資本」格差があり、国民創出のための公共プロジェクトがエリートに実質的に独占される状況を析出できた。また同時に、エリートの公共プロジェクト独占の背景には、米国がエリートの経済基盤であった私的領域(宗教と土地所有)への介入を回避し、旧来からの私的財産を全面的に保護したことが無関係でなかったことも、地主優遇的な税制システムからも検証できた。すなわち、植民地体制下での「リベラル」で「寛容とされる」公共プロジェクト導入が、国民的乖離状況・亀裂に転位する逆接を実証できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究の初年度にあたる本年は、研究の成果である論文が大小含めて5点、学会発表も研究会を含めると4点あり、着実に形になって表れている。加えて、当初平成26年実施予定であった国際学会で、海外からの研究者を招聘し、かつパネルセッションの編成が年度末に実施可能となった。これはいずれも、研究代表者による研究遂行が予定通り進捗していることを物語るものである
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Strategy for Future Research Activity |
平成26年度の研究計画に関して、大きな変更はない。ただし、上述のとおり、当初平成26年度開催予定であった国際学会(第3回国際フィリピン研究者会議)が主催者の意向により、平成26年12月から平成26年2・3月に変更となった。それに伴い、同会議への海外からの研究協力者(国立シンガポール大学アジア研究機構・ポストドクトラルフェロー・ジョシュア・ゲダチェ氏)招聘、ならびにパネルセッションの編成は、前倒しして、平成25年度内に実施となった。 その一方で、平成26年7月にシンガポール大学で開催予定の全米アジア学会アジア地区第1回研究大会(AAS-in-Asia)で、研究代表者として組織編成を予定していたセッションが採択され、研究発表できることとなった。これにより、研究成果発表をより加速化させていきたい。引き続き8月と9月には、フィリピンと米国でも資料収集調査を行う予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度の交付額は130万であったが、平成26年度に予定されていた研究成果発表が前倒しとなり、そのために学会参加費ならびにそれに伴う海外からの研究協力の招聘費用として、20万を前倒し請求を行った。その結果、残金1,166円が発生した。 平成26年度の交付額は当初130万を予定していたが、上記の理由から20万減の110万となる。それに1,166円を加えて、7月に予定している全米アジア学会第1回アジア大会への参加のために使用する予定である。
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Research Products
(8 results)