2014 Fiscal Year Research-status Report
米国資本市場法制における投資会社法の行為規制の意義
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25380106
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Research Institution | The University of Tokushima |
Principal Investigator |
清水 真人 徳島大学, 大学院ソシオ・アーツ・アンド・サイエンス研究部, 准教授 (30434228)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 米国投資会社法 / ベンチャーキャピタル |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度においてはベンチャーキャピタル規制としての米国投資会社法の歴史的展開について研究を行った。米国においてはベンチャーキャピタルに対する投資会社法の適用の是非を巡ってSECとベンチャーキャピタル業界との間で半世紀以上にわたる争いが展開され、現在の法制度を形成していることから、その歴史的経緯を検討することにより、投資会社法の行為規制がベンチャーキャピタル規制の文脈で有している意義を明らかにすることができると考えたからである。 本研究でははじめに、ベンチャーキャピタルに対して投資会社法が適用されるようになった背景および投資会社法が適用されることにより生じる問題点について確認し、投資会社法の適用の是非を巡るSECとベンチャーキャピタル業界の立場について検討を行った。次に、1980年投資会社法改正により企業育成会社に関する特例が設けられた経緯とその内容について検討を行った。第三に、1996年投資会社法改正によりベンチャーキャピタル規制の州法への委任規定の新設、適格購入者概念の導入、企業育成会社に関する特例の改正が行われた経緯およびそれらの内容について検討を行った。 本研究の検討結果から明らかになったことは、1.SECとベンチャーキャピタル業界との間における半世紀以上にわたる論争を経て、米国投資会社法の下でベンチャーキャピタル規制の多様性が実現されていること、2.投資会社法の行為規制は公募により資金調達を行うファンド一般において投資家保護の役割を果たしていると考えられること、3.企業育成会社に関する特例はわが国において公募により資金調達を行うベンチャーキャピタル規制のあり方を考える上で重要な示唆を与えてくれることである。 本年度の研究成果については、正井章筰先生古稀記念論文集(成文堂、2015年7月刊行予定)にて公表する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度と今年度の研究作業により、米国投資会社法の行為規制が米国資本市場法制において果たしている役割は確実に明らかになりつつあるように思われるからである。 昨年度の研究においては米国投資会社法の組織再編規制を中心に、行為規制について検討を行った結果、投資家保護のために厳格な行為規制が導入された一方、過半数の独立取締役から構成される取締役会が監督機能を十分に発揮できる状況では行為規制を緩和し、組織再編規制の柔軟化を図っていることが明らかとなった。 また、今年度の研究作業から、ベンチャーキャピタル業界が再三にわたってベンチャーキャピタルに対する投資会社法の適用除外を主張してきたにもかかわらず、SECが投資会社法を適用すべきとの立場を維持してきたのは、ファンドの性格如何にかかわらず、多数の投資家が参加するファンドについては投資会社法を適用し投資家保護を図るべきと考えてきたからであると思われる。 以上から、投資会社法の行為規制は公募により資金調達を行い多数の投資家の参加が予定されているファンドにおいて投資家保護の役割を果たしているという、米国のファンド法制において一般的に位置付けられる普遍的な制度と評価することができるように思われる。また、同法の独立取締役制度は、それが十分機能している状況においては、行為規制に代替する制度として位置付けることができ、それにより行為規制を大幅に緩和しても投資家の利益が確保されているように思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
米国資本市場法制における投資会社法の行為規制の意義を明らかにするためには、昨年度および今年度と同様、投資会社法のある一定の行為規制が導入された経緯から今日に至るまでの展開について、歴史的な考察を行うことである。このような研究作業をできるだけ多くの行為規制について行っていきたい。 また、今年度の研究成果を踏まえた新たな研究課題として、金融危機後のヘッジファンドをはじめとする私募ファンド規制の議論との関係において、米国投資会社法の行為規制の意義を検討していきたい。私募ファンドの文脈において投資会社法の適用の是非が論じられているならば、まさにファンド法制一般について投資会社法の行為規制は投資家保護の役割を果たし得るものと評価できるからである。 さらに、投資顧問業者の受託者責任に関する判例法の進展についても検討していきたい。投資顧問業者による受託者責任の遂行は投資家の利益確保にとって本質的であることから、判例法理の展開が行為規制のあり方やその運用に対して影響を及ぼしている可能性があると考えられるからである。 その他、コリン・メイヤー(清水真人・河西卓弥訳)『ファームコミットメント―信頼できる株式会社をつくる』(NTT出版、2014)の翻訳をきっかけに、新たに海外の研究者とのネットワークを構築することができた。このネットワークを活用して、本研究をさらに進展させていきたい。
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Causes of Carryover |
今年度の前半においては、他の研究作業に時間を割かなければならない事情があったため、文献資料を購入して本研究課題に従事することができなかった。それにより、当初使用する予定であった物品費が予定通りに消化できず、それにより次年度使用額が生ることとなった。 また、当初は今年度内にオックスフォード大学およびロンドンビジネススクールに出張し、現地の先生と研究の打ち合わせを行う予定であったが、現地の先生方の都合により、海外出張を4月に延期せざるをえなかった。それにより、今年度使用するはずの海外旅費が次年度に生ずることとなった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
徳島大学においては、本研究テーマに関連する書籍が全く所蔵されていないことから、研究作業を進展させるには多くの専門文献を購入する必要がある。そこで関連する洋書および和書の購入に次年度使用額を充てたいと考えている。 また、研究を遂行するためには東京都内の大学または国立国会図書館にて、データベースを使用させてもらう必要がある。そのための国内旅費として研究費を使用する予定である。 さらには、本研究テーマを進展させるには、国内・海外の研究者との交流を深め、共同で論文を執筆するための研究打ち合わせ等も重要な作業となる。そこで、これらの作業を行うための国内旅費および海外旅費として、研究費を使用したいと考えている。
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Research Products
(3 results)