2013 Fiscal Year Research-status Report
代表関係理解の刷新を通じた現代デモクラシー構想の拡充
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25380143
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
空井 護 北海道大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 教授 (10242067)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 政治的代表 / 動的代表関係 / 代表的現代民主政 / 政治的自己決定 |
Research Abstract |
平成25年度においては,「動的代表関係」理論の構築を目指し,代表研究の最新成果をフォローしつつ,より原理的な作業として,「静的代表関係」理論の定立の最初期の試みであるトマス・ホッブズの代表論を検討した。その結果,代表者を認定した以上,それが下す決定を「自分のものとするown」義務を被代表者は負うという彼の行論を反転させ,個別の政治的決定に関して,この「オウンする」という営為の成否に着目することで,代表関係を動的に構想できると考えるに至った。静的な代表関係理解に立ち,選挙が代表者を認定すると考えれば,現代デモクラシーのもとで政治的決定者はすべて代表者になってしまう。対して,選挙は政治的決定者を認定するにとどまり,市民が「オウン」できる政治的決定が下されているとき,その市民は政治的決定者によって代表されると理解すれば,また政治的決定者にとって「代表者」とは付加的な属性であり,決定を積み重ねるなかでパフォーマティヴに備えてゆくものと理解すれば,よりダイナミックな形で代表関係を構想できる。 しかし,以上のように直線的に考えてゆく際,政治的決定が市民によって「オウンされる」ことが本当に必要で,また可能なのかとの疑念が生じた(この疑念は,M. Huemer, The Problem of Political Authority, Palgrave Macmillan, 2013に触発され,H. L. A. HartやJ. Razらのauthority論を検討するなかで膨らんだものである)。もし現代における政治的決定が,その構造上,市民を直接拘束し得ないのであれば,いかに動的なものであれ,代表を通じた政治的自己決定を規範的要請に高めることそれ自体に,何らかの正当化が必要とされよう。こうして,反転させるべきホッブズの議論にも欠落している政治的決定の構造解析が,重要な課題として浮上した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究課題が期間内に明らかにすべきは,①政治的決定局面で政治的決定者と政治的共同体構成員(市民)との間に取り結ばれる「動的代表関係」とはいかなるものか,②「現代デモクラシー」という今日において極めて特徴的な政治体制のもと,かかる動的代表関係が成立するための条件は具体的には何か,③動的代表関係を駆動原理とする「現代民主政」(すなわち,現代デモクラシーのもとに展開する政治),つまり「代表的現代民主政」は,「現代共和政modern republic」に代表されるような,他の同じくデモクラティックな規範的政治構想に対し,いかなる点でその優位性を誇れるのかの3点であり,研究初年度にあたる平成25年度は,この①についての考究に充てることを予定していたところ,「9.研究実績の概要」欄に記載のとおり,ホッブズが最も端的に定式化した静的代表関係の反転を通じて動的代表関係を構想・導出できるとの見通しをつけることができた点において,研究は一定程度順調に進展したと評価できる。 しかしながら,動的代表関係は政治的共同体構成員(市民)による政治的自己決定の実質化を目標とする規範的な政治原理のひとつである,との本研究課題の基本想定を部分的に掘り崩す可能性を秘めた重要な問題の伏在に新たに気づきつつも,その理論的な処理あるいは解消に完全には成功していないことにおいて,初年度につき本研究課題の達成度は「やや遅れている」と評価せざるを得ない。初年度から着手する予定であった資料収集やヒヤリング調査といった重要な作業が,年度を通じて体調が万全でなかったこともあり,遺憾ながら手つかずに残されてしまったこともまた,達成度を下げる大きな要因となった。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の計画では,本研究課題の2年度目にあたる平成26年度においては,「動的代表関係」を駆動原理とする「代表的現代民主政」の成立条件を明らかにする作業へと歩を進めることとしていた。具体的には,その前半において,動的代表関係のもと,市民が政治的決定者の「代表性」について判断を下す場として選挙を位置づける場合,かかる選挙を軸に展開する現代民主政はいかなる条件のもとで成立するかを考察し,ついで年度の後半において,この成立条件の現実性を見定めるべく,代表的現代民主政が要請する市民像が,現時点で現代民主政理解の主流を占める,市場消費行動とのアナロジーから導かれる経済合理主義的な市民像に対し,どの程度の修正を迫るかを考察する予定であった。 しかし,「9.研究実績の概要」欄に記載のとおり,初年度の研究を遂行する過程で,政治的決定の構造解析という大きな課題が新たに浮上することとなった。そこで当初の予定を若干変更し,平成26年度の前半は,現代において政治的決定はいかなる構造を備えているのか,政治的決定と市民との間にはどのような関係が成立するのか,さらにより端的に,政治的決定に関して市民の「自己決定」を本当に語り得るのか,といった原理的な問いへの答えを探る作業に充てることとする。このため,代表的現代民主政の成立条件についての考察は,年度の後半に回したい。 なお,平成25年度中は,資料収集・ヒヤリング調査のための国内旅行がかなわず,研究経費の大部分が外国図書の購入に充てられた。これにより,最新の研究をフォローするうえで不可欠な図書資料の整備状況は著しく改善され,2年度目以降の設備備品費への支出は,当初計画から大幅に減額できる見通しがついたものの,研究の遅れは否めない。平成26年度は,資料収集・ヒヤリング調査とともに専門的知識の修得作業も可能なかぎり積極的に行い,この遅れを取り戻すよう努める。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
今年度末における物品(消耗品)の購入(年度内に納品済み)に関し,所属研究機関の財務会計処理手続が遅れたため,外見上,次年度使用額が生じることとなった。 実質的には今年度において使用した経費であり,次年度での利用を予定するものではない。
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