2014 Fiscal Year Research-status Report
代表関係理解の刷新を通じた現代デモクラシー構想の拡充
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25380143
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
空井 護 北海道大学, 公共政策学連携研究部, 教授 (10242067)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 政治的代表 / 動的代表関係 / 代表的現代民主政 / 政治的自己決定 |
Outline of Annual Research Achievements |
当初の計画では,本研究課題の第2年度にあたる平成26年度を,「動的代表関係」を駆動原理とする「代表的現代デモクラシー」の成立条件の解明作業に充てる予定であった。しかし,前年度にT・ホッブズの代表論を検討する過程で,代表関係を動的に構想する際に必要と考えられる,市民が政治的決定を「オウンする」ということが,本当に可能なのかとの重大な疑念が生じたため,当初の予定を若干変更し,政治的決定の基本構造の分析を行った。 その結果,現代デモクラシーを通じたそれであると否とを問わず,現代における政治的決定を市民から完全に外部化する理解が,理論的に十分に成り立つとの確信が深まった。それは,政治的決定を,政府を形成・維持・整形し,それに対して一定の行為・認識を命じる指令と割り切る理解であり,この理解が成り立つとき,政府構成員以外の市民は,いかなる政治的決定をも正面から受け止めて「オウンする」ことはなくなる。市民は,政治的決定が特定する行動範型に同調する義務も負わず,「法に従う義務はあるか」との問いも一種の疑似問題に過ぎなくなる。 しかしこれは,おそらくほとんどの政治学者にとって異様な理解と映るはずであり,本研究代表者としても,その正しさに100%の確信を抱くのは容易ではない。そこで,かかる政治的決定理解の成立可能性とその含意につき,「第2期市民社会民主主義研究会」(山口二郎法政大学教授主催)で口頭報告し,さらにその際に準備したペイパーを鏑木政彦氏(九州大学教授)と野田昌吾氏(大阪市立大学教授)に送付し,直接面会してコメントを頂戴し,またこの理解に基づいたH・アレント読解を,公開シンポジウム「実証的研究の文脈におけるハンナ・アレント」(慶應義塾大学法学研究科主催)において報告した。そして,これらの機会に得られた意見を踏まえつつ,同ペイパーを論文化する作業を年度末にかけて進めたところである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究課題が期間内に明らかにすべきは, ①政治的決定局面で政治的決定者と市民との間に取り結ばれる「動的代表関係」とはいかなるものか, ②「現代デモクラシー」という今日において極めて特徴的な政治体制のもと,かかる動的代表関係が成立するための条件は具体的には何か, ③動的代表関係を駆動原理とする「現代民主政」(すなわち,現代デモクラシーのもとに展開する政治),つまり「代表的現代民主政」は,「現代共和政 modern republic」に代表されるような,他の同じくデモクラティックな規範的政治構想に対し,いかなる点でその優位性を誇れるのかの3点であり,本研究課題の第2年度にあたる平成 26年度は,この②についての考究に充てることを予定していたところ,「9.研究実績の概要」欄に記載のとおり,動的代表関係は市民による政治的自己決定の実質化を目標とする規範的な政治原理のひとつである,との本研究課題の基本想定を部分的に掘り崩す可能性を秘めた重要な問題を究明し,動的代表関係成立の「消極的」な,しかしながら決定的な条件を理論的に確定できた点において,研究は一定程度順調に進展したと評価できる。資料収集や専門的知識獲得のためのヒヤリング調査も,年度を通じて精力的に行い,研究会や公開シンポジウムでの報告も,貴重な意見を多数得られた点で,実り多いものであった。 しかしながら,当初平成26年度に予定されていた動的代表関係成立の「積極的」な条件の解明,すなわち代表者の認定(authorization)ではなく,政治的決定者の代表性(representativeness)に関する市民の判断の集計をその主たる機能とする選挙を軸に展開する政治過程が安定的に循環する条件を探る作業が,不十分なままに終わったことは否めず,このため,本研究の達成度は,この第2年度に関して「やや遅れている」と評価せざるを得ない。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の計画では,本研究課題の最終年度にあたる平成27年度においては,自己決定の実質化を目指す「代表的現代デモクラシー」構想が,恣意的な決定の出現可能性の極小化を目指す体制構想として,現時点で現代デモクラシーに関する最有力の下位体制規範モデルである「現代共和政」と基本発想を大きく異にする構想であることを受け,このふたつの下位モデル間での優劣関係を検討することを予定していた。 しかし,初年度の研究を遂行する過程で浮上した政治的決定の構造解析という課題への対応を進めるなかで,現代デモクラシーのもとでの政治的自己決定の実質化をめぐる構想の検討とならんで,現代デモクラシーが政治的自己決定をノーマルな前提としないがゆえに逆説的にも備える一貫した構造(および,それと比較した際に浮かび上がる古典デモクラシーの構造上の非一貫性)を解明することの重要性に,あらためて気づかされた。これは従来ほぼ無視されていた論点であり,独創的な知見につながる可能性を秘めている。 そこで,当初の予定を幾分変更し,平成27年度の前半は,前年度の研究成果を足掛かりに,政治的自己決定に着目しながら現代デモクラシーと古典デモクラシーの対照性を解明する作業に充て,日本政治学会研究大会をはじめ各種学会・研究会で報告を行いつつ,研究論文を執筆・公表する。そのうえで,年度の後半に,当初予定していた現代デモクラシーにおける政治的自己決定実質化構想の積極的な形での定立,ならびにそれと他の有力モデルとの比較作業を進めることとしたい。この部分の成果を十全な形で研究期間内に発表し終えることは,不可能ではないもののかなり難しいと思われるが,資料収集・調査を進め,補助金助成期間の終了後,残すは論文執筆のみという状況をつくるよう努める。また,これまでの研究の遅れを取り戻すべく,引き続き専門家からのヒヤリングを通じた専門的知識の獲得にも努める。
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Causes of Carryover |
今年度末における物品(消耗品)の購入(年度内〔2015年3月10日〕に納品済み)に関し,所属研究機関の財務会計処理手続が遅れたため,外見上,次年度使用額が生じることとなった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
実質的には今年度において使用した経費であり,次年度での利用を予定するものではない。
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