2013 Fiscal Year Research-status Report
スミスにおける共感と自己保存の原理の学史的再構成:経済学の進化心理学的基礎
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25380258
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Kyushu Sangyo University |
Principal Investigator |
高 哲男 九州産業大学, 経済・ビジネス研究科, 教授 (90106790)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | アダム・スミス / 共感 / 自己愛 / 思いやり / 生物学的方法 / 道徳 / 正義 |
Research Abstract |
1.アダム・スミス『道徳感情論』の翻訳・刊行(2013年6月に講談社学術文庫)。とくに、従来「同感」と訳されることが多かったシンパシーの概念について、それは、心理学的に見えはするが、実際には人間本性がもつ「社会的動物の一員」としての本質的特徴であること、その意味で、スミスの「生物学的」な人間と社会の理解について、従来の内外の研究は不十分であったことを、巻末の訳者解説でも明確に指摘しておいた。 2.翻訳・刊行の作業を通じて分かってきたことを、専門研究者だけでなく、むしろ一般読者への「社会還元」のため、雑誌『本』2013年7月号(講談社刊行)に「自己愛と思いやりと社会」と題した小論で、スミスにおける共感概念の基本的特徴を分かりやすく説明しておいた。 3.現在、アダム・スミスと功利主義の関係について英文原稿を完成させるため、準備中である。2014年の夏、2回の学会発表を予定しているが、ヒュームとスミスの共感概念の違いだけでなく、そもそも「感覚器官と知覚作用」の理解の仕方が、両者の間で異なっていたことが明確になってきた。当初の予定では、エジンバラで調査した後、とくにNature概念を中心に学会発表する予定であったが、個人的な事情もあり、26年度にずれ込んでいる。 4.テキスト『経済学史のエッセンシャルズ』第3章「アダム・スミス」で『道徳感情論』と『国富論』の関連性を明確化した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
申請時のエフォート率を達成できなかったことが最大の理由だが、それには2つの理由があった。1つは、同居の義母を冬に自宅で看取ったため、外国出張ができず、疲れもたまり、仕事への集中が落ちたことである。 二つめの理由は、研究科主任として、予想外の校務が押し寄せてきたため、時間とエネルギーを取られたことであった。 春になり、上記2つの不測の事態は終わったから、研究の遅れは次年度以降取り戻せるであろう。
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Strategy for Future Research Activity |
1.ヒュームがスミスの「共感」理論に対して放った批判の意味を、ヒューム自身の共感概念を正確に再構成したうえで、『道徳感情論』第二版以降におけるアダム・スミスによる「反論」の意味を明確化すること。 2.ニュートン流の実験と経験にもとづき統一的な理論体系の構築を目指し、人間行動の原理としては効用を、社会原理としては慣習のもつ意義を重視しつづけたヒュームに対し、生物学的な集団的行動の意義を重視し、個人の自愛心と他人への思いやり、この2つの特徴を「本能」と捉えた上で、「共感」によって社会が成立しうることを論証した点にスミスの特長があることを、原典に即して再構成し、論文にして発表する。 3.スミスのキリスト教批判が、無神論者ヒュームとどのような関係を持っていたかを解明すること。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
1.25年度に予定していたイギリスでの資料調査、英語論文校閲費、学会発表などが、諸般の事情で延期せざるをえなかったため、26年度に可能なかぎりすることにした。 主要なものは、以下の通り。1.オーストラリア経済学史学会での学会発表のための海外出張旅費2.ISUS13回大会での学会発表のための国内出張旅費3.英語論文校閲費4.図書購入費
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