2014 Fiscal Year Research-status Report
スミスにおける共感と自己保存の原理の学史的再構成:経済学の進化心理学的基礎
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25380258
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Research Institution | Kyushu Sangyo University |
Principal Investigator |
高 哲男 九州産業大学, 経済・ビジネス研究科, 教授 (90106790)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | アダム・スミス / 共感 / 功利主義 / 生物学的方法 / D.ヒューム / 効用 |
Outline of Annual Research Achievements |
1.スミスの人間本性概念を内在的に理解していく上で、生物学的な人間の理解が根底を貫いているということを、初期の方法論や『道徳感情論』の説明をつうじて再構成し、それを、オーストラリア経済学史学会で報告し(Instinct as a Foundational Concept in Adam Smith’s Social Theory: Biological Understanding of Human Nature in TMS and WN. The 2014 HETSA Conference, The University of Auckland, 11 -12 July.)、「次の機会に、もう少し先まで、話を聞きたい」という好意的な感想も少なくなかった。スミスはニュートン主義者に属するというのは「思い込み」であり、訂正を要するということだけは、理解してもらえたようである。 2.スミスが功利主義をあまり評価していなかったことは良く知られているが、功利主義の先駆者の一人とされるD.ヒュームに対するスミスの批判が、その功利主義的な理解にあったことは、解明されてこなかった。『道徳感情論』第4部を性格に再構成し、On the Meaning of the layered and Evolutionary Structure of “Utility” in Adam Smith’s Theory of Moral Sentiment, The 13th Conference of the International Society for Utilitarian Studies, Yokohama National University, 20-22 August 2014.として学会報告した。これは、今もう少し加筆修正して、学会誌への投稿に備えつつある。 3.上記の学会報告と内容的にはほとんど重なるが、我が国での研究成果を織り込み、日本語でより詳細に論じたのが、アダム・スミス『道徳感情論』における「効用」概念の重層構造――「正義」との関連性を手がかりに―― (『同志社商学』66巻5号 2015年(平成27年)3月15日、1-27頁)である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
さまざまな学内事情があって、初年度に時間と労力を空費したが、今年度も、まだ完全には片付いておらず、なかなか遅れを取り戻すまでに至らなかった。とはいえ、海外の学会報告をもう少し重ねていけば、最終年度には、何とか一応の目処が立つくらいには来ているような気がする。ただ、欧米の学会は、基本的に6月か7月に開催されるから、授業を休んで行かざるをえず、後の補講が大変で、疲れなどを考えると、思うようには海外の研究者と意見交換できないので、次年度は、そのあたりを少し工夫してみようと思っている。
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Strategy for Future Research Activity |
最終的には、日本語と英語で、それぞれ「研究書」を出版する目処を立てるのが目標であったが、それは少し「無理」な感じがするので、今年はまず、①『道徳感情論』と『国富論』でスミスが何を、どこから、誰に向かって主張したかを、学生でも分かるようにわかりやすく解説するとともに、現代の豊かさと自由の意味を問い直すような「スミス入門書」を執筆する。②ヒュームとスミスの「共感」の理解、「功利主義の理解」のそれぞれが、どう重なり、どう違うのか、これを英文論文にして発表する。③『道徳感情論』がいかなる意味と内容をもって、『国富論』の基礎になっているのか、これを日本語論文としてまとめ、専門学会誌に発表する。
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Causes of Carryover |
イギリスに出張し、スミスやダーウィン関係資料を調査する予定であったが、体調および家庭の事情もあって、次年度に延期したこと、および、もう一本予定していた論文の英文校閲費が、原稿ができなかったため、留保したこと。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
イギリスの経済学史学会に出席するとともに、エジンバラ、グラスゴー、ロンドンで資料の調査を行う。
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