2014 Fiscal Year Research-status Report
グローバル経済下における排出権取引制度の理論的研究
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25380334
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Research Institution | Rissho University |
Principal Investigator |
河原 伸哉 立正大学, 経済学部, 教授 (50447207)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 環境政策 / 排出量取引 / 政治経済 / グランドファザリング方式 / オークション方式 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成26年度は、交付申請書の研究計画・方法欄における課題(1)の①および②、さらには課題(2)に関わる研究を実施した。具体的には、小国開放経済の枠組みで、産業界や環境保護団体などの特定利益団体など環境政策の形成過程で重要な役割を果たす要因を考慮した政治経済モデルを構築し、モデルを解析的に分析することで、均衡における排出総量を特徴付けた。その上で、排出枠が無償で配分されるグランドファザリング方式と有償で配分されるオークション方式を想定し、それら排出枠の配分方法が均衡における排出総量に及ぼす影響について分析した。得られた主要な結論は以下のとおりである。まず、排出枠の決定が産業界や環境保護団体による政治的影響を受ける場合、政府は彼らに対する便宜を図るために社会的最適水準に比べて非効率的な量の排出枠を発行する。特に、産業重視の政府は、排出枠の価格を引き下げるために過大な量の排出枠を発行し、環境重視の政府は、汚染を削減して環境ロビーの便益となるよう過小な量の排出枠を発行することを示した。産業重視の政府が発行する過大な量の排出枠は、グランドファザリング方式に比べてオークション方式においてその程度が大きくなり、環境重視の政府が発行する過小な量の排出枠もまた、グランドファザリング方式に比べてオークション方式においてその程度が大きくなることが示された。すなわち、排出枠は有償ではなく無償で配分されるほうが、排出総量が社会的最適水準に近くなることが判明した。以上の結果を論文にまとめ、国内研究会、さらには、平成26年12月に韓国・慶北大学校で開催された国際セミナーにおいてその成果を報告した。上記セミナー等における他の研究者からのフィードバックを基に、論文の改善・修正を実施し、モデルを小国開放経済モデルから二国モデルへと拡張するための、準備作業を実施した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題の目的は、開放経済下における排出量取引制度について、政治経済的要因の存在下で、他の政策手段と比較検討することにより、その効果を分析することにある。交付申請書の「研究の目的」欄の「研究期間内で明らかにする課題」の第一項目においては、「小国開放経済の枠組みで排出権取引制度をその形成過程にまで遡って分析を行う。具体的には、政策形成過程で重要な役割を果たす特定利益団体をはじめとする政治的要因をモデルに明示的に導入した場合、排出削減目標は果たして効率的な水準に決定されるのか、また排出権の初期配分の方法(オークション方式・グランドファザリング方式など)はどのように選択されるのかという問題について理論的考察を行い、環境税など他の政策手段の比較・検討を行う」とある。上記「研究実績の概要」欄からも明らかなとおり、上記課題は昨年度の主要な研究課題であり、論文としてまとめ、各種研究会などにおいて成果報告を実施できたことから、その目的は概ね達成できたものと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度は、交付申請書の研究計画・方法欄における課題(2)および(3)に関わる研究を実施する予定である。しかしながら、課題(2)に関しては、前年度後半より、その分析に向けての準備を既に進めているが、本研究における経済モデルのみならず、一般的な2国モデルにおいて往々に生じる問題点として、2国モデルへの拡張により、モデルの構造が複雑化し、モデルを解析的に分析して直感的な結論を得るのが難しいことが予想される。そのため、今年度においては課題(3)の実施を優先的に進め予定である。具体的には、課題(1)において構築された小国開放経済の政治経済モデルにおいて関税などの貿易政策を導入し、そのような貿易を制限する政策の存在が、均衡において選択される排出削減目標や排出権の初期配分の方法に与える影響について検討する。さらに貿易が制限された状態から自由貿易への移行が、均衡における上記意思決定をどのような方向へ変化させるのかについて検討する。得られた研究成果を適宜国内研究会で報告するとともに、前年度において論文としてまとめた研究成果を国際学会で報告する予定である。
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Causes of Carryover |
先述のとおり、平成26年度は、(1)経済モデルを構築・分析し、(2)分析結果を論文としてまとめ、(3)研究成果を研究会等で報告することに重点を置いたことから、研究課題は概ね予定どおり実施できたが、特に国際学会での研究成果の報告等において予定を下回ることになった。その理由としては、多くの国際学会が夏期に開催され、その報告締切が半年前となっており、当該研究の成果を取り纏めたタイミングとのずれが生じてしまったことが考えられる。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成27年度においては、国際学会での報告が既に予定されており、またそれ以外での国際学会参加も予定している。また平成26年度での使用を想定していたソフトウェアなど物品費の使用も早い段階で実施する。
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