2015 Fiscal Year Research-status Report
政策反応関数を用いた短期金利の実証分析~金利平滑化と政策シフトの検証~
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25380392
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
中島 英喜 名古屋大学, 経済学研究科(研究院), 准教授 (90510214)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 政策反応関数 / 短期金利 / 金利の平滑化 / 政策シフト |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、日本と米国の短期金利に関する過去半世紀の時系列標本を用いて、その動学を長期的観点で分析するものである。分析にあたっては、短期金利を管理する中央銀行の行動を政策反応関数として定式化し、関連する5つの仮説を順次検証する。 まず、金利の変動要因毎に異なる平滑ポリシーを適用できるモデルを新たに提案し、これを日本の短期金利を対象に検証した。平成27年度はこのモデルを用いて、新たに米国の短期金利に関する下記3点の探索的実証分析を行った。なお名目金利の下限の影響を切り分けるため、2002年以降は補助的な分析にとどめた。 (1)過去40年余りの間、FRBは短期金利の変動を平滑化したか、(2)この間、FRBの金融政策に何らかのシフトが生じたか、(3)政策シフトが生じた場合、FRBはこれらのシフトも同様に平滑化したか。 非常に単純化された作業仮説から出発して下記の諸仮説を探索的に導いた。この内、(d)FRBの政策反応関数の時間的同一性と金利平滑化の二律背反、および(f)政策シフトと株価の関係の指摘は本稿の新たな発見と言える。 (a)産出ギャップに関するFRBの予測モデルは過去40年間同一で真の予想モデルと一致、(b)インフレに関する真の予測モデルは石油ショック後に数年間シフトしたがFRB予測はこれを織り込んでいない、(c)この期間を除くとFRBの予測は真のモデルと同一である蓋然性が高い、(d)FRBの政策反応関数が時間的に同一なら、FRBによる金利の平滑化仮説は統計的に棄却される、(e)FRBの政策反応関数の内、水準係数は時間的にシフトする蓋然性が高い、(f)この水準係数のシフトを機械的に予想すると、FRBの議長交代や株価の底入れと密接な関係が認められる(g)この水準シフトを前提とすると、政策反応関数における他の係数は穏当な値で時間を通して一定である、(h)この水準シフトを前提とすると、金利の平滑化仮説は必ずしも棄却されない。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究で実証を予定している下記の5つの仮説のうち、初年度は日本の短期金利の長期標本を用いて、まず最初の2つの仮説の実証を行った。次年度(昨年度)は、同じ標本を用いて最終目標の一つである実務への適用可能性(5)を検証した。これに対し平成27年度は、分析対象を米国の短期金利の長期標本に代えて、最初の3つの仮説の実証を試みた。 (1)過去40~50年余りの期間、日本および米国の中央銀行は短期金利の変動を平滑化していたか、(2)過去40~50年余りの期間、日本および米国の金融政策に何らかのシフトが生じたか (3)各国で政策のシフトが生じた場合、これらのシフトも同様に平滑化されるのか (4)1995年の円金利の低下は、デフレ回避の予防的引き下げだったのか (5)政策反応関数を用いた金利推移の長期シミュレーションは「実用」に耐えるか
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度は、当初実証予定の5つの仮説のうち、(4)1995年の円金利の低下はデフレ回避の予防的引き下げだったのかという仮説を検証する予定である。また、米国の短期金利(FFレート)についても、新たに金利の下限が顕在化した期間(2002年以降)を分析対象に加え、本研究で新たに提案したモデル(金利の変動要因毎に異なる平滑化ポリシーを適用できるモデル)の妥当性を検証したい。
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Causes of Carryover |
主な理由は2つ。まず、PCをはじめとしたIT機材について、動作に不安があるものが複数あったため、翌年度(平成28年度)の改善を見込んで年度内の購入を控えたこと。もうひとつは、分析対象を日本の短期金利から米国の短期金利に変えることで生じると予想された問題が、実際は比較的少なかったため、結果の吟味に基づく意見交換の頻度(旅費)が当初予定に比べて抑えられたこと。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成27年度末における次年度使用額は、実証分析や意見効果交換に用いるIT機材の購入や意見交換の旅費として平成28年度中に順次適当に執行する予定である。
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