2014 Fiscal Year Research-status Report
西陣・桐生・福井における近代技術定着過程と制度革新-比較産地発展史構築を目指して
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25380425
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
橋野 知子 神戸大学, 経済学研究科(研究院), 教授 (30305411)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 日本経済史 / 産業集積 / 経済発展論 / 繊維産業 / 織物業 / 大衆化 / 産地 |
Outline of Annual Research Achievements |
26年度においては、前年度初めの計画通り、(1)桐生織物産地における技術導入、(2)福井産地の構造変化、(3)西陣産地の長期的・歴史的な動向、そして三産地のマクロ的な位置づけに関して数量的データならびに記述資料に基づいて資料収集を進めた。(1)については、これまで明らかにした桐生の新技術導入を福井や西陣と比較・再検討した。(2)については、1880年代に勃興した新興の福井産地が、1920年ごろまでに3つの成長局面があったことを明らかにした。また、本研究が着目する二産地と異なり、福井の場合は地理的な広がりが大きい点を考慮し、産地内を地域別(郡市別)に分けて分析を進めた。そこで①羽二重生産を最初に開始した福井市、②追随した近隣地域、③1900年代後半から急速に成長した地域に分けた。力織機化初期には、力織機導入が成長に決定的な意味を持ったが、力織機が広範に導入された1910年代中ごろ以降には、日本製羽二重そのものの需要が小さくなったことや、より付加価値の高い変わり織物の生産開始もあって、力織機導入の効果が小さくなってしまうことが分かった。生産面だけでなく、日本の羽二重の欧米市場における位置づけに関し、American Silk Journalの記述を整理・検討することによって、とりわけアメリカにおける需要の変化を明らかにし、英文雑誌に投稿した。(3)については、西陣研究における古典的・基本的な文献のサーベイを行うと同時に、『京都府統計書』や組合史の数量的データの整理を進めた。新興諸産地の発展に押されて衰退の局面にあった幕末の西陣は、明治維新後に積極的に西洋技術の導入に取り組んだが、それは高級織物の生産に生かされただけでなく、製品の大衆化(絹綿交織の生産)や産地内の分化をも伴った。大衆化の波については、戦前だけでなく第二次大戦後の動向も視野に入れ分析する必要が明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
資料・データの収集・整理に時間を要しているが、各産地に関して作業は順調に推移している。桐生に関しては、「桐生織物業の近代化-新技術の導入をめぐって」『桐生史苑』54号で、福井・西陣のみならず、他の絹織物産地の動向における桐生の位置づけを明確にした。福井については、データベースの整理を進めつつ、Fourth Asian Historical Economics Conference で'The Rise and Fall of Industriaolization and Changing Labor Intensity: The Case of Export-Oriented Silk Weaving District in Modern Japan'(Discussion paper 1501, Graduate School of Economics, Kobe University)を報告し、国際雑誌投稿のための改訂や今後の研究の進め方について、大きな示唆を得た。西陣については、長い伝統を有する産地のため、主として近世の動向から現在までの推移をサーベイした。戦前については、『府県統計書』、組合史、先行研究における生産額・労働力等の系列を整理することに時間を要し、日本語のサーベー論文の作成の途中ではあるが、戦後については、先行研究や繊維年鑑のデータから西陣産地の大きな構造変化をとらえ'Emergence of Luxury Market and the Survival of Japanese Traditional Kimono Weaving Industry in the Second Half of the 20th century'(Discussion Paper 1507, 同上)としてまとめ、世界経済史会議(WEHC)のプレ・ワークショップで報告した。
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Strategy for Future Research Activity |
27年度は、英文国際雑誌に投稿した'The Rise and Fall of Industriaolization and Changing Labor Intensity: The Case of Export-Oriented Silk Weaving District in Modern Japan’の掲載を目指すとともに、戦前・戦後の西陣産地の動向に関するそれぞれの論文執筆、桐生・福井・西陣の三産地の発展を比較したHashino and Otsuka (2013)'Cluster-Based Industrial Development in Contemporary Developing Countries and Mordern Japanese Economic History' (JJIE 30)での議論を『紡織要覧』の整理をもとに再検討し、'Comparative Development of Weaving Districts in Modern Japanese Economic History in Modern Japanese Economic History: Kiryu, Fukui and Nishijin, 1870-1930'としてまとめる予定である。これは、本研究代表者が、本年8月京都で行われるWEHCで組織するセッション’Visiting Industrial Distrcits in History and Devloping World’(日本人4人・外国人7人)で報告する。このセッションは、経済史と開発経済学・経済発展論の研究者が共同で組織する、WEHCのなかでも異色の組み合わせである。ここでの議論を本研究が目指す比較産地発展史のために大いに役立てたい。
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Causes of Carryover |
25年度後期に家庭の事情により作業に支障が生じたため(実父の介護・平成26年3月6日死去)、26年度の海外学会報告の申し込みや海外資料調査の準備が遅れ、旅費や論文校閲費の支出が減少した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
27年度には、国内外で積極的に学会報告行うため、旅費や英文校閲費で支出する。また、『紡織要覧』の大量データ整理補助のため、アルバイトを雇用する。
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Research Products
(7 results)