2014 Fiscal Year Research-status Report
近現代における世界経済の形成と熱帯地域-飢饉、疫病、そして「南北格差」
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25380438
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Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
脇村 孝平 大阪市立大学, 大学院経済学研究科, 教授 (30230931)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 世界経済 / 熱帯 / 飢饉 / 疫病 / 南北格差 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、以下の三つの研究活動を行った。 第一は、文献研究と論文執筆である。前年度からの継続で、W・A・ルイスの「熱帯発展論」の検討を行い、それを主題とする以下の論文を執筆した。脇村孝平「熱帯と世界経済、1880~1913年-W・A・ルイス『熱帯の発展』論ノート」『経済学雑誌』第115巻第2号、2014年12月。第二は、現地調査である。7月27日~8月5日の期間、ケニアのヴィクトリア湖周辺の農村および漁村において、主に現地住民のマラリア罹患状況に関する現地調査を行った。また、年度末の3月10日~14日の期間、フィリピンのマニラで、現地の研究者との研究交流を行った。フィリピン大学ディリマン校および国際稲研究所の研究者と会い、近現代フィリピンの農業発展に関する専門的知見を得た。第三は、本研究に関連する研究発表である。以下の通り。 ・‘Situating the East Asian Quarantine Politics in the International Context: The Late 19th Century and the Inter-war Period’, The International Conference ‘Quarantine: History, Heritage, Place’, The University of Sydney, August 14-16, 2014. ・‘India’s Export Trade during the First Half of the 19th Century: Growth, Structural Change and Fluctuations’, 国際ワークショップ「19世紀前半『世界不況』下の貿易・貨幣・農業:ユーラシア東南部における比較と関連」、愛媛大学法文学部、2014年9月7日。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在までの達成度をとりあえず、研究成果に依拠する形で示す。上記の論文(「熱帯と世界経済、1880~1913年-W・A・ルイス『熱帯の発展』論ノート」『経済学雑誌』第115巻第2号、2014年12月)の概要は、以下の通り。 ルイスの「熱帯の発展」論では、19世紀後半から20世紀前半にかけて、熱帯地域における一次産品輸出に起因する一定の経済成長が見られた点、ただし同じ熱帯地域であっても、土地豊富経済(例えば、タイ、ガーナ)と土地不足経済(例えば、インド)との間には、経済成長に開きがあった(土地不足経済では成長率が低かった)点が明らかになった。その上で、ルイスは、一次産品の輸出による経済成長が見られた場合でも、温帯地域と熱帯地域との間に大きな経済格差が生じた点を重視して、究極的には両地域の間での農業生産性(自給農業における食糧生産性)の格差に真の原因を求めた。だが、ルイスは、熱帯地域において、如何なる原因によって農業生産性(自給農業における食糧生産性)が低いのかという点を明らかにはしなかったので、本研究では、今後この点を熱帯環境史という視角から究明する予定にしている。なお、以下に述べる「今後の研究の推進方策」の箇所で敷衍する。 なお、これまで、インド経済史を中心に検討を進めてきたが、本年度より熱帯地域のもう一つ事例としてフィリピン経済史の調査研究を開始した。19世紀に一次産品の輸出が大幅に増加するとともに、他方で顕著な人口の増加と耕地の拡大があったことが明らかになった。これらの点を、同じく熱帯環境史という視角から究明する予定である。ポイントとしては、今後、輸出貿易の発展、人口の変化、農業経済の変化などを明らかにするつもりである。
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Strategy for Future Research Activity |
熱帯地域の農業発展は、土地の入手状況を別にすると①降雨量、②疾病環境、③土壌条件という三つの要因によって大きく左右される。熱帯地域は、①降雨量に規定されて、湿潤熱帯(熱帯雨林)と半乾燥熱帯(サバンナ)とに大別されるが、上記の農業生産性(自給農業における食糧生産性)の問題も、その様相がこのような二類型によって大きく異なってくる。さらに、アジアの熱帯地域の場合には、モンスーンの影響も考慮する必要があり、話がより複雑になる。以上のような地域類型に基づきつつ、②疾病環境と③土壌条件を考慮に入れつつ、農業生産性(自給農業における食糧生産性)の問題を、医学、生物学、農学などの知見を取り入れつつ、学際的な形で検討していきたいと考えている。 加えて、フィリピンの経済史の調査研究に加えて、次年度よりケニア経済史の検討を開始したいと考えている。この研究でも、輸出貿易の発展、人口の変化、農業経済の変化などの点を、①降雨量、②疾病環境、③土壌条件といった三要因と絡めつつ分析したいと考えている。
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Causes of Carryover |
次年度に予算額を当初より少なめに計上していましたが、研究の進捗状況に従って次年度に行う予定の活動が若干多く見込まれる状況の変化がありましたので、繰り越しをいたしました。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
二回ほど東京出張(東京へ資料調査)を行う予定。
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