2015 Fiscal Year Annual Research Report
近現代における世界経済の形成と熱帯地域-飢饉、疫病、そして「南北格差」
Project/Area Number |
25380438
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Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
脇村 孝平 大阪市立大学, 大学院経済学研究科, 教授 (30230931)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 世界経済 / 熱帯 / 飢饉 / 疫病 / 南北格差 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年度は、主に熱帯地域と温帯地域との間の経済格差の問題、すなわち「南北格差」の問題の解明に取り組んだ。以下は、明らかにしたことの概要である。 W・A・ルイスの「要素交易条件」論を参照枠とした。ルイスは、熱帯地域の貧困は、熱帯地域の輸出向け一次産品生産部門の低賃金、より根底的には熱帯地域における自給的食糧生産部門の食糧生産性の低水準に起因すると指摘していたが、この議論の前提として、自給的食糧生産部門から一次産品生産部門への無制限労働供給という事態が想定されていた。 このような図式は、熱帯アジアの事例において妥当すると考えられる。19世紀後半から 20世紀前半にかけて、東南アジアの輸出向け一次産品生産部門には、外部に位置するインド(あるいは中国)から大量の低賃金労働の移動があったことはよく知られている。インドの農村における自給的食糧生産部門の極めて低い食糧生産性が、人口稀少なはずの熱帯地域における低賃金労働を決定していたと言える。 しかし、19 世紀前半に目を移すと、東南アジアの一次産品生産部門への外部からの労働の移入はほとんど存在しなかった。この時期、フィリピンでは砂糖・タバコ・マニラ麻、ジャワでは砂糖・コーヒーといった一次産品の生産・輸出が著しかったことが注目される。この場合、何が労働供給の源泉になったのだろう。そもそも東南アジアでは、18世紀の後半までは、極めて人口密度の低い世界であった。しかし、19世紀初頭以降、人口増加率は著しく高まる。例えば、フィリピンでは 1800年から1876年までの人口増加率は 1.65%、ジャワでは1815年から1850 年までで1.65%と、驚異的な高さとなっている。低賃金労働供給はこのような急激な人口増加を背景として可能になったということが明らかとなった。
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