2013 Fiscal Year Research-status Report
現在価値測定のための割引率の決定要因に関する実証研究
Project/Area Number |
25380597
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
桜井 久勝 神戸大学, 経営学研究科, 教授 (10127368)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 現在価値 / 割引率 / 企業価値評価 / 資本コスト |
Research Abstract |
初年度にあたる平成25年度は、実証分析に先立って、現行の会計基準において割引現在価値による測定が求められている取引の内容を整理するとともに、割引率の決定要因を概念レベルで検討した。 この結果、現行の会計基準のもとで割引現在価値による測定が必要とされる6つの取引を識別した。一部の不良債権に対するキャッシュフロー見積法の適用、減損が生じた固定資産の使用価値算定、ファイナンス・リース取引におけるリース資産とリース債務の評価、保有する社債および発行した社債に対する償却原価法の適用、退職給付債務、および資産除去債務がそれである。 これらの会計測定で適用すべきものとして会計基準が規定する割引率は、約定利子率や追加借入利子率、および当該資産からのキャッシュ・フロー独自ないし企業独自のリスクを反映した割引率など、多様であった。平成25年度の研究では、このような差異が何に起因して生じており、またそれが正当化される根拠は何かについて、財務会計の基礎概念に照らしつつ論理的な考察を行った。 この概念的な考察の過程で、割引率の的確な選択決定を通じて会計測定値の有用性と信頼性を確保する観点から、特に重要な取引として、固定資産の減損処理が識別された。この取引に関して規定されている割引率は、当該固定資産からのキャッシュ・フロー独自のリスクや、それを保有する企業に独自のリスクを反映した数値である。したがって平成26年度以降は、企業独自のリスクを反映した割引率の有力候補として、企業の将来の予想利益と現在の株価水準から推定される割引率としての資本コスト、およびその決定要因を実証研究に分析する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度の目的は、実証研究を進める基礎として、現行の会計制度における現在価値測定の規定内容を概念レベルで整理することであった。平成25年度の研究では、現在価値測定が求められる6通りの取引を抽出し、適用が求められる割引率を検討し、取引ごとに規定された割引率の合理性について考察し、その成果を後述の論文(桜井久勝,2014)にとりまとめて公刊した。 この研究の過程で、平成26年度以降に取り組むべき重要な研究課題として、証券市場での価格形成と整合した割引率の把握と、その決定要因の分析の重要性が明らかになった。
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Strategy for Future Research Activity |
企業の株価形成に反映された割引率を把握する一般的な方法は、将来の利益予測額の現在価値と、現在の株価水準が等しくなるような割引率である。この割引率は、インプライド資本コストとよばれる。したがって平成26年度以降はまず、企業価値評価に適用される残余利益モデルを用いて、企業別のインプライド資本コストを推定する。 次いで、インプライド資本コストの決定要因を実証的に明らかにする。現在のところ、決定要因として次の3つが有力視される。景気変動に伴う売上高の変動性、変動費と固定費の構造に規定される損益分岐点、および他人資本と自己資本による資金調達構造がそれである。したがって、これらの要因を企業別に把握するための財務指標とその測定方法を検討したのち、実証分析に取り組む予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度の研究は、基礎概念レベルの文献研究を中心としたものである。これに対し、平成26年度以降に取り組む実証分析では、データベースの作成や資料整理のための謝金、および分析結果について議論や意見交換を行うのに必要な旅費が追加的に予想される。これに備えて平成25年度の助成金は、当初の年次計画の遂行の妨げにならない範囲で、平成26年度以降へ繰り越した。 平成26年以降の研究では、資本コストの実証的推定、および資本コストの決定要因に関する仮説検証のために、入念なデータ分析を行う。そのために、手作業によるデータベースの作成や、分析結果資料の体系的な整理を効率的に実施するために、所定額の謝金が必要となるものと思われる。またパイロットテストや分析途中の段階での結果を議論する目的で、他大学の研究者や産業界の関係者のもとに出向くために、旅費も予想される。平成25年度から繰り越した金額は、これらの用途に使用する計画である。
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