2014 Fiscal Year Research-status Report
現在価値測定のための割引率の決定要因に関する実証研究
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25380597
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
桜井 久勝 神戸大学, 経営学研究科, 教授 (10127368)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 企業価値評価 / 割引現在価値 / 割引率 / 自己資本コスト / 営業レバレッジ / 財務レバレッジ / システマティックリスク / 損益分岐点 |
Outline of Annual Research Achievements |
現在価値による企業価値評価のために用いる割引率の決定要因について、前年度における概念的・理論的な考察に続いて、本年度は理論モデルが示唆する決定要因について実証分析を実施し、次のようにして理論モデルの想定と首尾一貫した科学的証拠を得た。 最初に、投資リスクを組み込んだ資本資産評価モデルの世界では、投資収益率の不確実性が市場ベータ値で測定されることに着目した。次に、このモデル式の中で投資利益を企業会計上の業績利益に置きかえてモデル式を展開することにより、投資リスクの根本に存在する企業の業績変動に影響を及ぼす企業特性を抽出した。(1)事業内容に起因する売上高の変動性、(2)変動費および固定費という費用構造によって規定される損益分岐点に由来する営業レバレッジ、および(3)他人資本と自己資本という資本構成に起因する財務レバレッジがそれである。これら3つの変数は、企業の業績変動幅を左右する要因として、古くから伝統的に注目されてきた企業特性でもある。 四半期財務諸表のデータが入手可能となった2008年4月から2014年3月までの期間を対象に、各年1100~1200社の3月決算企業をサンプルとして実施した実証分析の結果は、理論モデルから想定されたのと整合的な科学的証拠を提示していた。すなわち、売上高変動性が大きいほど、また営業レバレッジが大きいほど、さらには財務レバレッジが大きいほど、システマティック・リスクの尺度である市場ベータ値が大きいという関係が観察された。この結果は、財務諸表から得られる不確実性リスクの尺度変数が、割引現在価値による企業価値評価における割引率の決定要因をとして、情報価値を有することを証拠づけている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
割引現在価値測定で用いる割引率の決定要因について、平成25年度で実施した概念整理に続いて、本年度では投資リスクに関する基礎概念や理論モデルが示唆する変数を実証的に調査するのが当初の目的であり、これを予定通り実行した。 すなわち、(1)投資リスクに影響を及ぼす3大要因のそれぞれについて、その大きさを企業別に把握し計数化するための尺度を検討したのち、(2)資本資産評価モデルにおける投資リスク尺度である市場ベータ値と、これら3変数の間で成立するであろう関係を論理的に想定したうえで、(3)想定通りの関係が現実に成立しているか否かを実証分析し、上記の研究実績の概要に記したとおりの科学的証拠を得た。 本研究の成果は「不確実性リスクの決定要因に関する実証研究」と題して、神戸大学大学院経営学研究科ディスカッションペーパー2015.12号としてとりまとめて、近隣分野の研究者に回覧して意見を聴取しているところであり、ブラッシュアップののち『国民経済雑誌』212巻4号(原稿締切2015年6月1日)に投稿の予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の研究により、ある年度の資本資産評価モデルにおける市場ベータ値と、その同年度における3つの会計リスク尺度の間に強力な関係が存在することが明らかになったことをふまえて、今後は次の2つの方向へ研究を拡張することにより、研究の前進と精緻化を図りたい。 第1は、投資リスク尺度としての市場ベータ値に変えて、市場が証券価格形成にすでに反映させているインプライド資本コストと、会計リスク尺度との間の関連性を調査する。インプライド資本コストの測定には、将来利益の予想データが必要となるが、経営者や証券アナリストによる利益予想情報から、資本コストを推定する方法を試す計画である。い。 第2は、四半期財務諸表で把握される過去の会計リスク尺度と、将来期間の市場ベータ値との関係を調査し、過去の四半期財務情報から将来期間の投資リスク尺度を予想する方法の有効性を明らかにする計画である。
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Causes of Carryover |
平成26年度の実証分析により、当初に想定した以上に、説得力の高い科学的証拠を得ることができたので、平成27年度には実証分析の対象とする仮説を追加して、実証分析結果の頑健化を図りたい。そのためには、企業の実績利益情報だけでなく、将来期間に関する予想利益情報の入手が必要となる。このうち最新の対象期間分については、手作業での入手が必要となるため、平成26年度の予算の一部を残して平成27年度に繰り延べることにした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
最新期間のデータは、いまだ電子ファイルとして入手できないため、大学院生を雇用して手作業で進める計画であり、そのための謝金として、平成26年度から平成27年度へ繰り越した予算を充当する計画である。
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