2013 Fiscal Year Research-status Report
初期ドイツ社会学の形成史―W.ディルタイ、F.テンニース、G.ジンメル
Project/Area Number |
25380638
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
廳 茂 神戸大学, その他の研究科, 教授 (10148489)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | ジンメル / ウェーバー / ディルタイ / テンニース / 人間科学 / 社会学 / 生 / 理解 |
Research Abstract |
本科研のテーマは、「初期ドイツ社会学の形成史-W.ディルタイ、F.テンニース、G.ジンメル」であるが、じつは「初期ドイツ社会学」という表現は便宜的な通称である。ドイツにおける社会学という学科の制度的定着は、1920年代以降である。当初社会学は哲学や歴史学、経済学などと区別しがたい形で混融しており、その中からのちの社会学という学問が形成されてきた。この軌跡を追跡することは、思想史上の難題の一つとされている。研究代表者は、この時代の社会学形成を人間諸科学の展開の中で追跡することに長年従事してきた。とくに、そのなかの中心的人物の一人であるジンメルの思想における社会学の位置と性格については、おおよその見通しをつけつつある。この4、5年は、ジンメルにおける社会学的関心と哲学的関心の関係の解明に集中してきた。彼においてそれは生と社会の関係として語られる。この関係を集約的に、しかしきわめて暗示的に語った社会学を代表する古典である「社会はいかにして可能か」という論文を手がかりとして、事態の解明はこの何年かにおいて進んでいる。長編の連作論文を、研究成果として発表してきた。解明作業は今現在、ほぼ半ばまできているが、この2年ほどで後半部の道筋もつけることができると思われる。このジンメル読解の作業に対応して、同時代の他の思想家の動向を重ねる研究も徐々に進展している。初期ドイツ社会学においてジンメルと並んで重要なマックス・ウェーバーとの関係については、過去何度か論じている。日本のウェーバー研究は世界的にレベルが高いが、ジンメル研究をこれに対応させるにはまだ不十分と思われるので一層の努力が必要である。さらに、ジンメル、ウェーバーに加えて、ディルタイとテンニースを付け加える作業にも着手してきた。ただし、膨大な文献を解読する作業が必要であり、研究はきわめて地道な時間のかかる仕事となっている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本科研の1年目は、これまでの研究実績を踏まえて、二つの主題について研究成果を生み出すことに集中した。一つは、ジンメルの思想における哲学と社会学との関係の鍵を握っている、彼における生の存立のための社会の条件論の詳細を解明することである。これは最低まだ数年を要する困難な作業となると思われるが、その出発点となるジンメルの経済と資本についての考え方について、まとめるところまでは到達した。この作業の中心をなしたのは、ジンメルにおける社会哲学の概念と「ゾチーアル・リベラル」という概念の究明である。ジンメルの思想のクロノロジカルな変容と屈折がかかわる課題だが、4万字ほどの論文をまとめるところまでは結実した。これは、完成稿として大学紀要に発表している。 二つ目の焦点は、ディルタイの社会学史上の意義とジンメル、ウェーバー、テンニースとの関係と対照について、基礎的な解明作業を行うことである。このテーマについては、以前から哲学サイドのディルタイ研究者のワークショップに参加しているが、今年もその議論に加わった。さらに、「ルーマン研究会」のワークショップにも参加し、社会学説の展開について意見を交換した。こういった作業の成果は、「『ディルタイと社会学」』-G.ジンメルとの関係の視点から」という長編の約12万字の報告文としてまとめた(研究代表者山本郁夫、基盤研究(C)2011~2013年度「創造的跳躍としてのアナロジー-隠れた方法概念によるディルタイ哲学の再構築、印刷活字版成果報告論文集『ディルタイ哲学の新たな切り口』2013年3月発行、に収録)これは社会学にとってもっとも重要な相互作用、意味、理解、システムといった諸概念の歴史についての考察を試みたもので、もう少し彫琢してこれも最終的には長い連作論文に仕上げていきたいと考えている。この論文によって、本科研の基礎的な作業が一応整ったと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
ディルタイと社会学との関係については基礎的見通しをすでに開いたので、この継続として当時における歴史主義への対抗思想である自然主義と進化論に基づく社会理論の検討をする必要がある。とりわけシェッフレの社会理論を焦点として考えている。ディルタイの歴史主義、シェッフレの自然主義、この対比を軸にその両者にテンニースとジンメルがいかにかかわったかを究明してみたい。それによって、社会学にとりもっとも重要な相互作用というタームの概念史的考察が一層進展すると期待している。それとともに、テンニースがその社会理論において自明の前提としている植物的/動物的/精神的の自然主義的な分類軸の由来と意義についても考察するつもりである。ディルタイの理解論の1920年代以降の社会科学における継承の解明も、立ち入った検討に入る。 研究計画の中心におかれているジンメルの思想については、本科研の先行段階を形成している科研研究において書き上げていた草稿をさらに完成へともっていく努力もする。ジンメルの規範(ノルム)についての考察である。19世紀のドイツにおける道徳科学論は、テンニースやウェーバーのみならず、フランスのデュルケムの社会理論の基礎をなしたものであるが、研究が欧米においても遅れている。「初期ドイツ社会学」の解明にとって不可欠であるので、このテーマについても深めていく予定である。このことにもかかわるが、テンニースの『ゲマインシャフトとゲゼルシャフト』と並ぶ主著でありながらほとんど考察対象となってこなかった『哲学的ターミノロジー』の解読もはじめる。一種の記号論であり言語論であるが、これが「初期社会学」の形成にとりどういう意味があったのかを、社会、心、倫理などへの関心にかかわる人間諸科学における議論の全体的動向の中で検討する予定である。
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Research Products
(3 results)