2014 Fiscal Year Research-status Report
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25380724
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Research Institution | Kwansei Gakuin University |
Principal Investigator |
荻野 昌弘 関西学院大学, 社会学部, 教授 (90224138)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
雪村 まゆみ 関西大学, 社会学部, 准教授 (00607484)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 世界遺産 / 地域アイデンティティ / 記憶 / フランス / チュニジア |
Outline of Annual Research Achievements |
調査の概要:2014年度は、「開発と世界遺産」「集合的記憶と世界遺産」の観点から、各調査地域において、聞き取り調査および資料収集を行った。 1.フランス・チュニジア調査 1)観光開発と環境:フランスにおけるポンピドゥセンター付属図書館およびフランス国立図書館にて、フランスの世界遺産に関する資料を収集、モンサンミッシェルにおいて観光開発と自然環境の関連について調査を行った。2)「集合的記憶と世界遺産」:チュニジアにおいて、UNESCOナショナルコミッションおよび国立遺産協会にて聞き取り調査を行った。また、ローマ帝国の遺跡であるエル・ジェムの円形劇場に関して、異文化の歴史と地域アイデンティティという観点で調査を行った。 2.世界遺産暫定リスト掲載の遺産に関する調査 1)世界遺産暫定リスト掲載の遺産:世界遺産暫定リスト掲載の「長崎の教会群とキリスト教関連遺産」を対象とし、堂崎教会、旧五輪教会堂等五島市におけるキリスト教関連施設を調査した。また、地方公共団体における世界遺産化の取り組みや課題について聞き取り調査を行った。とりわけ、世界遺産登録に関して、地域振興と結び付けることと、観光圧力から地域住民の生活、信仰の場を保護することの両立等の課題があることが明らかとなった。2)地域の集合的記憶と世界遺産:地方公共団体における世界遺産登録制度の意味付けに関して調査を行った。とりわけ、暫定リスト掲載を目指す遺産を有する地方公共団体が世界遺産登録をいかに捉えているのか、また文化庁は各地域の活動をいかに捉えているのか、体系的に分析を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、ユネスコ世界遺産条約について,ユネスコ世界遺産がもたらす地域社会の変容について地域ごとに、開発と世界遺産の保全のふたつの論理の矛盾をはらんだ関係性、地域の集合的記憶と世界遺産登録の関わりという二つの視点から調査をすすめている。昨年度のユネスコ調査および地域調査の成果を踏まえて、本年度は、ユネスコの掲げる文化遺産保存の原則である「完全性」概念を各地域がいかにとらえているのか、欧米とアジア圏(とりわけ日本)との比較を行った。日本における文化財の修復、保存のありかたが、欧米中心的な「完全性」概念の捉え方に対して、いかに作用しているのか/しないのかと言う点に関して考察を行った。 また、チュニジアにおける世界遺産に関して、「異文化の歴史遺産と文化的アイデンティティ」という観点で調査を行った。世界遺産に登録されているチュニスのメディナは、現在のチュニジアの生活の場(市場やモスクがある)となっているのに対して、同じく世界遺産のローマ帝国の遺跡であるエル・ジェムは、現代のチュニジア文化と直接的な関係はない。しかし、円形劇場という建造物の特性を生かし、国旗掲揚をしたクラシックコンサート会場として利用したりと、国民意識を高める場となっていることが示唆された。 以上のように、本年度は、「地域の集合的記憶」に関して、「文化的アイデンティティと世界遺産」、「異文化の歴史遺産と文化的アイデンティティ」という観点で世界遺産制度について社会学的に考察を深めた。また、これまでの研究成果を踏まえて、国際学会での報告を行い、また、海外の出版社での出版計画をすすめているため、研究全体の達成度については、「おおむね順調」とした。
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Strategy for Future Research Activity |
1.英文ワーキングペーパーの作成(平成27年度):研究会を月1から2回のペースで行い、これまでの研究成果を英文ワーキングペーパーとしてまとめ、後述の英文出版に向けて原稿を準備する。 2.「世界遺産内における開発」に関する調査:世界遺産は「完全性」を原則としており、登録後の地域開発は認められない。ドレスデンの事例でみたように、完全性の喪失は世界遺産登録の抹消となる。しかし、オーストラリアの世界遺産カカドゥではウラン鉱山開発が進められ、地域の文化の保護を阻害している点、また、関西電力がウラン開発に関わっている点など、複雑な問題が生じている。世界遺産内における開発の問題について、カカドゥを対象として調査を行う。 3.世界遺産制度と地域の価値の関係についての考察:本研究では、世界遺産登録がもたらす地域の変容がどのようなものであるか、経済開発と世界遺産の保全の矛盾をはらんだ関係性、および地域の集合的記憶と世界遺産登録の関わりというふたつの視点から考察してきた。そのなかで、ユネスコの評価基準によって、文化的価値の評価基準が一元化していくリスクが伏在している点を実証的に明らかにしてきた。また、一方で、異なる文化圏の文化遺産を世界遺産として登録するなか、世界遺産登録基準の解釈の拡大、変容が起きていることも示唆される。本研究では、この点に関しても焦点化していく。 4.国際会議での報告、成果の英文出版:国際会議において研究成果の報告を行い、3年間の成果をできるだけ早い段階でまとめ、英文出版する。
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[Book] International Encyclopedia of the Social & Behavioral Sciences, 2nd ed. Vol.42015
Author(s)
U. Hannerz, D. Boyer, S. Barber, T. Dupras, I.T. Elo, A.D. Foster, T. Nechyba, H. Yeung. C. McBride, D. Muijs, S. Hanson, J.D. Sidaway, R. Whatmore, R. Hammersley, R. Greenspan, K. Levine, W.S.Y. Wang, G. Jarema, C. Mantzavinos, M.Ogino,eds.
Total Pages
200-205
Publisher
Elsevier
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