2013 Fiscal Year Research-status Report
国立大学誘致運動と地元負担―「地方利益」としての国立医科大学
Project/Area Number |
25381067
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
大谷 奨 筑波大学, 人間系, 教授 (70223857)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 国立大学 / 医学部 / 医科大学 / 設置者負担主義 / 地方利益 / 地元負担 |
Research Abstract |
本年度は、第1期のうち旭川医大、愛媛大医学部、第3期のうち島根医大、第5期のうち福井医大について、およびこれら新設医大の前身に相当する秋田大学医学部の設立過程について資料の収集を進めるとともに、医大誘致から新設までの地方政府の動向について把握することに努めた。 まず秋田では、当初の県立医大構想が秋田大学医学部誘致運動へと変質してゆくなかで、県立病院の国立移管といった実質的な地元負担が確定してゆくプロセスが明らかとなった。このような挙県体制で陳情を繰り返し、かつ地元負担含みを前提に展開される誘致運動は、その後の「模範」となり、典型的には愛媛大学医学部誘致運動がこのパターンを引きついでいる。しかし同じ1期校でも旭川については、設置場所をめぐって道内で深刻な確執が生じた。道東の釧路市と道北の旭川市が激しい誘致運動を展開しており、共倒れを恐れた道当局が調整した結果、まず旭川へ誘致することで一本化し、釧路はさしあたり道立医療機関を設置することで溜飲を下げることとなった。このような地域内での争いと、一本化のための調整およびそのための手配は、島根医大についても同じであった。出雲市と松江市が争う中で、県は出雲市への誘致を決めるのだが、その見返りとして松江を国体の主会場と定めた可能性を指摘することができる。 このように誘致運動と設置決定までの経過は、各地方で類似していたごとくであるが、その中で地元負担の条件も均質化していくのではないかと考えられる。福井医大の誘致過程で、県当局は先行事例を詳細に検討し、各地の地元負担の内容を精査の上運動を展開していた。さしあたり、前例が道県を越えて踏襲されるために、誘致過程が類似していくのではないかと考えるところである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画では今年度は、1期校から3期校の設立過程を主として新聞記事や県議会議事録から確認しようとしていたが、福井県文書館所蔵資料を検索したところ、誘致に関わる行政文書を大量に発掘した。また北海道議会においても本会議議事録以外に、医大誘致時に設置された特別委員会の議事メモを収集することができた。これらにより「研究実績の概要」にあるように、地域を越えた医大誘致運動の共通性を把握することが可能となり、翌年度以降も継続する新聞記事、議会議事録、行政資料収集の作業を効率よく進めることができると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
まずは、各地の県立文書館や議会事務局に、福井や北海道と同じ水準の資料があるかどうか、その有無も含め調査を継続したい。同時に、誘致運動にパターンがあることを前提として、各地の地方紙記事の渉猟を続けるが、優先順位として、県内での一本化に難渋した地域から着手したい。 また、秋田大学医学部が当初県立医大を構想していたことから、遡って岐阜や広島、三重などの県立医大(医学部)の国立移管の経過についても一通りの把握が必要となると考えている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当初、『医大○周年記念誌』類を大量に購入することを考えていたが、古書としてはそれほど流通しておらず、各地図書館での必要箇所の複写ですませたため、また文書館での複写に際しては、文書公開審査を経なければならず、相当に時間がかかり、当初の見込みよりも調査出張の回数が減ったため。 今年度と同様ないしそれ以上の調査活動を考えており、また国立公文書館所有の文書の多くは接写が可能であるため、旅費と比較的高性能のデジタルカメラの購入に充てたいと考える。
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