2013 Fiscal Year Research-status Report
数論的な多様体のL関数とモチーフ的コホモロジーおよび円分体論への応用
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25400007
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
大坪 紀之 千葉大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (60332566)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | L関数 / モチーフ的コホモロジー / レギュレーター / 超幾何関数 / ヤコビ和 / イデアル類群 |
Research Abstract |
代数体上で定義された代数多様体、より一般にモチーフのL関数はリーマン・ゼータ関数の一般化であり、そのモチーフの数論的な性質が深く反映されるものである。ベイリンソン予想はL関数の特殊値をレギュレーターで記述する予想であり、類数公式の一般化になっている。 フェルマー曲線に付随するモチーフのL関数はヤコビ和が定めるヘッケL関数である。申請者の以前の研究で、レギュレーター(モチーフ的コホモロジーからドリーニュ・コホモロジーへの標準的な写像)が一般超幾何関数の特殊値で書けることが分かっていた。今年度はその手法を拡張し、より広い範囲のフェルマー・モチーフに対してレギュレーターを計算した。 その近似値は計算機を用いて高い精度で求められる(ソフトウェアMathematicaを使用した)。一方、ヘッケL関数のs=0における特殊値(微分値)はソフトウェアMagmaを用いて計算できる。これらを独立に計算し、比較し、ベイリンソン予想が成り立つことを高い精度で確かめることができた。また、ベイリンソン予想の一部であるレギュレーター写像の全射性について新たな結果がいくつか得られた。 バーチ・スウィナートンダイヤー予想によると、上のL関数がs=1で消えない場合、ここでの特殊値は周期で書ける。そして周期はベータ関数の特殊値、よってガウス超幾何関数の特殊値で書ける。この特別な場合がよく知られているチャウラ・セルバーグ公式(レルヒの定理)である。上の結果はこの古典的な結果との強い類似を示しており、大変興味深いし、さらなる一般化が期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は計算的側面において予想以上の進展があり、ベイリンソン予想について新たな結果が得られるなどの成果が得られた。これは、L関数の特殊値と超幾何関数との関係についての理論的な研究の進展、またはそのp進類似の研究のためにも役に立つと思われるし、チャウラ・セルバーグ公式の一般化を示唆し、それへの重要なステップになったと思われる。 しかし、理論的な側面、とくに目標としていたクライン曲線(フェルマー・モチーフのひとつと解釈できる)のL関数の特殊値に関する研究については、いくつかの困難があり期待していたほどには研究が進んではいない。ベイリンソン予想のp進類似、つまりp進レギュレーターとp進L関数との関係の研究もこれからの課題である。 ヤコビ和の微分、円単数、ベルヌイ数の類似物などの研究は、一定の成果はあり新たな進展もある。しかし、十分な一般化やモチーフ的な解釈など、行うべき課題は多く、さらなる研究の継続を行いたい。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度に進展のあったフェルマー・モチーフのレギュレーターの研究について、その一般化や理論的な意味付けなどの研究を推進したい。とくに、虚数乗法をもつ楕円曲線に対してチャウラ・セルバーグ公式を一般化するレギュレーターと一般超幾何関数の特殊値の間の関係について研究を進めたい。 また、楕円曲面(射影直線上の楕円曲線の族)のレギュレーターに一般超幾何関数の特殊値が現れることが分かっており、その応用とp進類似について朝倉政典氏(北海道大学)と共同研究を始めており、これを継続する。 次年度はヤコビ和の微分、円単数、ベルヌイ数の類似物などの研究に比重をおいて研究したいと思っている。とくに、ヤコビ和の部分的コーツ・ワイルズ写像による像、その伊原・アンダーソン係数との関係、それらの間のモチーフ的な関係式、モチーフ的な解釈について研究を進めたい。 9月まではサバティカル研修中であり、おもに国外の研究者と交流し研究に役立てたい。帰国後は国内の研究集会で発表、議論などを行い、また共同研究者との連絡を密にし、研究を進めたいと考えている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
今年度は10月より千葉大学のサバティカル研修の一部として、日本学術振興会の特定国派遣研究者(カナダ/長期)として国外(トロント大学)に滞在したため、国内旅費の支出が予定より減ったことが主な理由である。 帰国後に当初の予定通り研究を続けるための費用として計画的に使用する。とくに、国外出張中にできなかった国内の研究者との研究打合せ、研究集会の参加などに活用したい。
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