2014 Fiscal Year Research-status Report
超高圧水素の金属転移と構造:準粒子計算に基づくバンドからみた構造
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25400371
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Research Institution | Tottori University |
Principal Investigator |
長柄 一誠 鳥取大学, 工学(系)研究科(研究院), 特任教授 (10135676)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 金属水素 / 金属転移圧 / GW近似 / バンド計算 |
Outline of Annual Research Achievements |
2011年Eremets等による約300万気圧近い超高圧縮下での水素の金属化を示唆する実験の報告から4年が経過し、また論文として公表されてはいないが、ごく最近同じグループによって150万気圧を越える超高圧下で水素化物が今までの最高超伝導転移温度を示すとの報告がなされ、水素および水素化物の超高圧下での金属化、超電導等の物性に大きな関心が集まっている。このような水素および水素化物の金属化や高い超伝導転移温度の可能性に関する理論的な研究は以前から行われているが、金属転移圧の高精度の予測が、実験的な構造決定が難しいこと、理論研究で多く用いられているLDA、GGAに基づくバンド計算の手法がバンドギャップの過少評価という欠点故に、依然として金属転移圧が精度よく評価できないままである。本研究においては半導体のバンドギャップを精度よく評価出来ることがわかってきている準粒子モデルすなわちGW近似と呼ばれる手法を用いたバンド計算によって、超高圧縮水素および超高圧縮水素化物の金属転移圧の評価を行っている。初年度の25年度のYH_3に続いて26年度においては、超高圧縮水素の構造としてイギリスのPickard等によって提唱されてきたいくつかの構造について、GW計算を行った。単位胞に12個までの水素原子を含む構造に関しては現有計算機システムで計算出来たが、300万気圧付近で最も低エンタルピー構造と予測されているB2/n構造は構造が複雑で計算機メモリーと演算速度の点から計算できないまま残した。26年度後半には阪大極限センターの計算機設備が強化され、これを使って計算可能性を試みていたが、最近になってより複雑な構造の計算可能性がわかって来て、現在B2/n構造に対するGW計算を進めている。26年9月までの結果は26年9月にフランスのリオンで開かれたヨーロッパ高圧グループ会議および日本での高圧討論会で発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
超高圧縮水素の構造に関して、イギリスのPickard等がGGAに基づく第一原理計算により、金属転移の可能性が最も高いと予想される圧力領域の、約200GPaから400GPaの圧力下での低エンタルピー構造を報告している。それらは斜方晶系で単位胞に4個および12個の水素からなるCmca-4およびCmca-12構造と単斜晶系で単位胞に24個の原子を含むB2/n-24構造である。本年度はこれらについて、GW近似を用いた第一原理バンド計算を行って来た。計算には鳥取大学の小谷岳生氏等によって開発されているEcaljコードを用いている。このコードは、単位胞に12個程度までの原子数からなる構造に対しては、手持ちの計算機のメモリーとCPUパワーでも計算可能であったが、単位胞に24個のB2/n-24になるとメモリーとCPU時間(約90GBと1Job約1週間)の関係で計算が進まなかった。そこで計算コードの高速化をすすめると同時に、最近増強された阪大極限センターの計算機が利用可能になったため、これの利用を試みていたところ、B2/n-24構造もなんとか計算可能であることが判明した。現在これを用いて計算をすすめている。結果の確認のためVASPコードでも計算を行っているが、VASPコードはk-点の間隔が自由に選べずバンド図を描くことが難しい。EcaljはGW計算でバンド図が描ける点がVASP等の海外コードにない特徴で、間接バンドギャップの評価には適している。当初予想した進度より2、3ヶ月送れているが、次年度はじめには今年度の目標点に到達出来る。
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Strategy for Future Research Activity |
Pickard等によって提唱されている構造のうち単位胞に24個の原子をもつ最も複雑な構造に対する、GW計算も最近阪大極限センターのクラスター計算機を用いれば何とか可能であることがわかり、現在計算を進めている。そのあとVASPコードを用いていくつかのk-点でのバンドギャップを評価し、Ecaljの計算結果のチェックを行う。結果は今まで学会等で発表して来た結果と合わせて論文で公表予定である。時間があれば200GPa-400GPaで、今までPickard等によって提唱されている構造以外の低エンタルピー構造の探索も行う。これについては主に研究協力者の石河氏が中心となって、彼らが開発した遺伝アルゴリズムを用いる構造探索コードを使用する。新しい構造が見つかればそれに対するGW近似計算も行ってバンドギャップと金属転移圧の評価を行う。
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