2014 Fiscal Year Research-status Report
新奇軌道秩序の探索と高エネルギー分光スペクトルの計算手法の開発
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25400377
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
田中 新 広島大学, 先端物質科学研究科, 助教 (70253052)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 軌道秩序 / 高エネルギー分光 / 動的平均場近似 / Dual Fermion法 / 強相関電子系 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、高エネルギー分光スペクトルを高精度で計算するための手法開発を重点的に行った。当初の計画では、これを行うのに、動的平均場近似を用いる予定であったが、より挑戦的で新しい計算手法である、Dual Fermion法を用いることにした。この方法は、動的平均場近似で得られた解についてさらに摂動計算を行うことにより、動的平均場近似では十分に考慮されていなかった空間揺らぎの効果をより正確に取り入れることができる。 先行研究では、連続時間モンテカルロ法を用いて、この方法による計算が行われているが、モンテカルロ法を用いた計算では正確なスペクトル関数を得るのが困難であるという問題点がある。この点を克服するため、本研究では、未だDual Fermion法ではなされたことのない、厳密対角化法を用いた計算手法および、実際に計算を行うプログラムの開発を行った。厳密対角化法は、低温領域を扱うのがモンテカルロ法に比べて容易であり、また、統計誤差の問題がないため、スペクトル関数等の物理量を精度よく計算できるのが特徴である。 プログラムは開発半ばであり、まだ本研究の主要な目的の一つである、軌道縮退の効果まで取り入れた議論を行うには至っていない。しかし、その準備段階として、強相関電子系の典型的なモデルである正方格子ハバードモデルにDual Fermion法を用いた計算を行い、この系の金属絶縁体転移とスペクトル関数との関連について議論した。この系では、長距離の反強磁性相関の効果が重要あり、この効果を十分に正確に取り入れられない動的平均場近似およびそのクラスター拡張で得られた結果とは、金属絶縁体転移の様相およびスペクトル関数が大きく異なることが分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の計画より、より挑戦的で新しい計算手法であるDual Fermion法を採用することにした。そのため、1万行程度のプログラムを新たに開発し、さらに実際的な計算方法の案出には試行錯誤が必要であったため、予定より時間を要した。これにより、計画の動的平均場近似では正確に扱うことができなかった空間相関の効果を扱うことができるようになり、さらにモンテカルロ法よりも正確なスペクトルが得られるようになったのは予定を遥かに上回る成果といえる。しかしながら、本研究の主要な目的の一つである、軌道縮退の効果まで取り入れた議論を行うには至っていない。
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Strategy for Future Research Activity |
Dual Fermion法を用いて、高エネルギー分光スペクトルおよび基底状態の種々の物理量を計算するプログラムは開発半ばであるが、これをさらに軌道縮退がある場合にも適用できるように拡張し完成させる。このプログラムを用いて、本研究のもう一つの目的である、軌道縮退のある系での、軌道秩序について議論する。具体的には、遷移金属化合物で、t2g、eg軌道縮退が重要になる系で準1次元系、三角格子、パイロクロア格子を持つ系などを対象とする。また、検証実験が可能な場合は提案および予想される高エネルギー分光スペクトル等の計算も行う。
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Causes of Carryover |
消耗品についての使用額が予定より少なかったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
成果発表のための出張費および論文投稿費に使用する。
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