2014 Fiscal Year Research-status Report
次世代鉄系酸化物磁石の開拓を目指したフェライト単結晶の育成と磁気異方性の評価
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25420710
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
中村 裕之 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (00202218)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | フェライト磁石 / 永久磁石 / 単結晶 / フラックス法 / 核磁気共鳴 / 国際研究者交流 |
Outline of Annual Research Achievements |
市場に出回っているフェライト磁石の代表例として,La-Co置換型のM型ストロンチウムフェライトがある.母物質は SrFe(12)O(19) であり,Co を置換することで磁気異方性や磁化が増大し,商品価値が生まれているが,Co を置換することで性能が向上する理由について確立した知見がない.初年度(2013年度)には Co の役割を調べるための対照実験として,Co と同族の Rh を置換した系の試料育成とその磁性評価を行った.ところで,La-Co 置換系では,従来,置換 Co は2価で安定あり,それで3価の Fe を置換するため,電荷補償のため2価のSrを3価の La で置換すると考えられてきた.しかし,我々が本研究とは独立に行った単結晶試料の系統的組成分析によると置換 La の組成はCo 組成より常に大きく,およそ 1:0.55 の比になっていることが判明した.すなわち電荷補償描像は成り立たない.このことは3価の Fe が2価に変化していると解釈するのが最も順当であり,実際,過去にも同様な可能性が議論されている.しかし一方で,Fe の価数が不安定であるならば,Co の価数(あるいは電子状態)が安定な2価(の高スピン)であるとすることには疑問の余地が残る.もし,置換 Co が2価の高スピンでないなら,様々な解析の前提がくずれるため,この点を明らかにすることは,とりわけ急を要する.このような観点から,2014年度は Co の微視的磁気状態を調べるため,我々がフラックス法で育成した La-Co 置換系単結晶に対して 59Co NMR 実験を行った.その結果,置換 Co の価数やスピン状態が従来考えられていたほど単純ではないことが明らかになった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
強磁性体(フェリ磁性体も含む)の 59Co NMR 実験では,Co サイトに内部磁場が存在するため,外部磁場をかけなくても共鳴が観測され,その共鳴周波数から内部磁場の大きさ,すなわち Co の微視的磁性を議論することができる.59Co 核の核磁気回転比は 10.03 MHz/T であり,また 3d 遷移金属元素に対する超微細結合定数の大きさは一般に 10 T/µB のオーダーであるので,2価の高スピン Co (S = 3/2,3 µB/Co)を想定すると 300 MHz 以上に共鳴が期待される.一方,もし Co の価数やスピン状態が2価の高スピンでなければ,小さな磁気モーメントや場合によっては非磁性の Co が存在することになる.そのため,La-Co 置換系の Co 状態の知見を得るには 10 MHz 程度の低周波から,場合によっては 500 MHz を越える周波数に渡る広い範囲で同一条件での実験を行う必要がある.そこで以上のような目的に合致した Co NMR のために特に開発された NMR 装置をもつストラスブール(フランス)の Institut de Physique et de Chimie de Strasbourg に試料を持ち込み実験を行った.その結果,2価の高スピン Co に対応すると考えられる共鳴が 300-400 MHz に2つ観測されたが,それ以外に 90 MHz 付近により強度の強い Co 信号が共存することが明らかになった.このことは小さな(あるいはゼロの)磁気ーモメントを持つ Co が存在することを意味し,全ての Co が単純な2価の高スピンではないことを極めて明確に示すものである.これはこれまでの常識を覆すものであり,重要な成果であると考えられる.
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Strategy for Future Research Activity |
2014年度に行った Co NMR による置換 Co の電子状態の研究,および2013年度に行った Rh 置換系と Co 置換系の対照実験に関しては,不足部分の補足実験を行った後,それらから得られる知見をまとめ,公表する予定である.それとは別に,新たな系の実験も進める予定である.市場に出回っている高性能フェライト磁石としてストロンチウムサイトを Ca-La に置き換えたもの(Ca 系とよぶ)が存在する.この系に対しては過去に単結晶が育成されたという報告はなく,適切な育成手法も未知であるが,残りの時間で単結晶の育成法の開拓を目指す.ところで Ca 系では Ca が鉄サイトの一部を占有する可能性が指摘されているが,Co 置換以前の母相の相安定性も未解明の状態である.そこで,まずは固体化学的な見地から,Co を含まない系の相安定性から検討を進める予定である.
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Research Products
(1 results)