2013 Fiscal Year Research-status Report
空間表現に基づく身体運動の統一的計算論的モデルと運動野ネットワーク神経活動の解明
Project/Area Number |
25430007
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Japan Advanced Institute of Science and Technology |
Principal Investigator |
田中 宏和 北陸先端科学技術大学院大学, 情報科学研究科, 准教授 (00332320)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 計算論的神経科学 / 第一次運動野 / 神経活動 / 視覚運動変換 / 到達運動 / 運動適応 / 計算論モデル / 空間ベクトル表現 |
Research Abstract |
外部空間での軌道情報をダイナミクス量に変換する際に関節角表現ではなく空間ベクトル表現を用いていると仮定する計算論モデルを提案し、既知の第一次運動野(M1)神経活動における多様な性質(コサインチューニング・最適運動方向の非一様分布・初期姿勢依存性・複数座標系の混在)を統一的に示すことができた。また、M1が運動をどのように表現しているかに関して19世紀から現在に至るまで論争が繰り広げられている。キネマティクスの立場では、M1 神経集団活動から外部座標系での運動方向が再構成されることから空間運動を表現していると主張する一方、ダイナミクスの立場ではM1 神経集団活動から筋活動が再現できることから筋張力を表現していると主張する。本研究では空間ベクトル表現から運動方向と筋張力の両方を再構成できることを数値シミュレーションで示し、両立場が相反するものではなく空間ベクトル表現から統一的に理解できることが分かった。 さらにこの計算論モデルを拡張し、ヒト運動適応のモデル化も行った。ヒト到達運動において手先の位置・運動ベクトル(頭頂葉)-> 身体各部位の位置・運動ベクトル(運動前野 )-> 空間ベクトル外積(第一次運動野)-> 筋張力(脊髄運動回路)という変換を提案し、空間ベクトル外積から筋張力への変換に可塑性があると仮定した。本モデルにより、キネマティクス運動適応の代表例である視覚運動回転変換(Krakauer et al. 2000)とダイナミクス運動適応の代表例である粘性外力場(Shadmehr and Mussa-Ivaldi 1994)の実験結果を統一的に再現することができた。従来キネマティクスとダイナミクスの運動適応は異なる神経機構に基づくと考えられていたが、本モデルの結果はこの異なる運動適応を単一の計算論的枠組みで説明した初めてのものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
上記で述べたように本研究で提案する計算論モデルは第一次運動野神経活動で知られている主要な性質を統一的に説明することができ、長年の懸案であるキネマティクス-ダイナミクス論争を計算論的に解決することができた。これは平成25年度研究実施計画で記述した内容である。加えて、ヒト到達運動における視覚運動変換と運動適応のモデル化ではキネマティクスとダイナミクスの運動適応を一つの計算論的枠組みで説明することに成功した。この結果は学術講演により発表済みであり、学術誌に投稿中である。これは平成26年度研究実施計画で記述した心理物理実験結果からの計算論モデルの検証である。これらの結果から本研究は当初の計画以上に進展しており、第一次運動野を含む運動関連部位を理解する正しい方向に進んでいると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成26年度研究実施計画で記述したように、計算論モデルで提案する視覚運動変換が脳の運動関連部位(前頭葉・頭頂葉・小脳)とどのように対応付けられるかを既知の神経生理実験結果から詳細な検証を行う。今後は、前頭葉・頭頂葉・小脳を含む運動野ネットワークの統一的計算モデルを提案し、電気生理実験で検証できる形で数値シミュレーションを行うことを計画している。計算論モデルと神経活動の比較を通して各運動関連部位がどのような計算論的役割を担っているかを解明することを目標とする。既知の神経活動との比較に加えて、神経生理学者との議論を通じて計算論モデルを積極的に検証する実験の提案も予定している。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
既存の設備等を利用することにより研究を推進し、十分な研究が遂行できたため。 【旅費】平成25年度までの研究成果を発表するため平成26年度は研究会や国際会議に参加し、また研究討論のため共同研究先に積極的に出張する。【物品費】研究を推進するための資料やソフトウェアを購入する。【その他】論文投稿料や学会登録費として使用する。
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