2015 Fiscal Year Research-status Report
放射線甲状腺発がんにおけるEML4-ALK融合遺伝子の生物学的役割に関する研究
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25430131
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Research Institution | Radiation Effects Research Foundation |
Principal Investigator |
濱谷 清裕 公益財団法人放射線影響研究所, 分子生物科学部, 顧問 (80344414)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
江口 英孝 埼玉医科大学, 医学部, 准教授 (00260232)
伊藤 玲子 公益財団法人放射線影響研究所, 分子生物科学部, 副主任研究員 (30283790)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | EML4-ALK融合遺伝子 / 甲状腺乳頭がん / コンディショナルトランスジェニックマウス / 放射線 / 組織学的特徴 |
Outline of Annual Research Achievements |
我々は、原爆被爆者の甲状腺乳頭がんにて見出されたEML4-ALK融合遺伝子は甲状腺乳頭発がんにおけるドライバー変異であること、かつその融合遺伝子は放射線被曝の結果であるという仮説をたてた。
我々は、この仮説の前半部を検証するためにテトラサイクリン発現誘導システムを用いて、EML4-ALK融合遺伝子発現に関して甲状腺組織特異的・時期特異的なコンディショナルトランスジェニックマウスを5系統作製した。ドキシサイクリン処理により甲状腺組織に特異的にEML4-ALK融合遺伝子発現が誘発される3系統のなかで、最も高い発現レベルを示す系統のコンディショナルトランスジェニックマウスを用いて発がん実験を開始した。 EML4-ALK融合遺伝子発現の誘導が、発がん実験の途中より多くの個体で見られなくなった。この系統のコンディショナルトランスジェニックマウスの甲状腺組織を初代培養し、in vitroの系で遺伝子発現の誘導を調べたところ、ドキシサイクリンの効果が全く見られなかった。ドキシサイクリンによる遺伝子誘導が起こらなくなった原因は現在のところ不明である。別の系統のコンディショナルトランスジェニックマウスを用いて発がん実験を開始した。
仮説の後半部を検証するために、不死化ヒト甲状腺上皮細胞を用いてin vitro X線照射実験を行い、0, 0.1, 0.2, 1, および5GyでX線単一照射した細胞におけるEML4-ALK融合遺伝子の出現を調べた。EML4-ALK 融合遺伝子の出現は 線量の増加に伴い増加するのが観察された。このことより、電離放射線照射はヒト甲状腺上皮細胞にRET/PTC再配列だけでなくEML4-ALK融合も引き起こすことが判明した。また、原爆被爆者の甲状腺乳頭がんに見られたEML4-ALK 融合遺伝子は放射線被曝の結果であるかもしれないと示唆される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
初年度(平成25年度)、Cre/loxP組み換え系とテトラサイクリン発現誘導システムを用いてコンディショナルトランスジェニックマウス作製用の導入遺伝子を作製したが、培養細胞を用いた実験の結果、loxPが切り出されてその下流のEML4-ALK融合遺伝子の発現が観察された細胞は、導入遺伝子陽性細胞の10%程度と低かった。したがって、途中でloxPのシステムを使用せずにテトラサイクリン発現誘導システムだけを用いた遺伝子発現系に切り換えたため、導入遺伝子の完成に予定以上の時間を要した。 また、ドキシサイクリン処理により誘発されるEML4-ALK融合遺伝子発現に関して、高レベルの発現を示すコンディショナルトランスジェニックマウスを作り出すのに予定以上の時間を要した。さらに、最も高い遺伝子発現レベルを示していた系統で、発現誘導が見られなくなった。このため、やや遅れた状態になっている。
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Strategy for Future Research Activity |
1.ドキシサイクリン処理による遺伝子発現誘導が見られなくなった系統の凍結胚を用いて新たにコンディショナルトランスジェニックマウスを作製する。新たに得られたコンディショナルトランスジェニックマウスおよび別の系統のコンディショナルトランスジェニックマウス、計2系統のコンディショナルトランスジェニックマウスを用いて発がん実験を行う。 2.ドキシサイクリン投与後、甲状腺乳頭がん形成までの時間と発生頻度を決定する。発生した甲状腺乳頭がんの組織学的特徴について調べる。マイクロアレイを用いて、甲状腺乳頭がんにおける遺伝子発現プロファイルの解析を行う。 3.放射線被曝が甲状腺乳頭がんの形成に要する時間、がんの発生頻度および甲状腺乳頭がんの悪性度あるいはそのいずれかに影響を及ぼすのかどうかを明らかにするために、ドキシサイクリン投与前にX線照射を行い、コンディショナルトランスジェニックマウスにおける甲状腺乳頭がんの発生に要する時間、がんの発生頻度および発生した甲状腺乳頭がんの組織学的特徴を非照射マウスと比較検討する。 4.in vitroのX線照射実験(0, 0.1, 0.2, 1, および5Gy)において、EML4-ALK融合遺伝子がヒト不死化甲状腺細胞に線量依存的に誘発されることを見出した。照射実験を繰り返し行い、EML4-ALK融合遺伝子の出現頻度が線量依存的であることを確認する。
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Causes of Carryover |
コンディショナルトランスジェニックマウスでの甲状腺乳頭がん形成が予想外の時間を要しており、甲状腺乳頭がんの分子病理学的解析に関連する費用が平成28年度に持ち越されたため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
ドキシサイクリン処理による遺伝子発現誘導において、最も高いレベルを示していた系統のコンディショナルトランスジェニックマウスでドキシサイクリン処理による誘導が起こらなくなったので、新たに凍結胚を用いてコンディショナルトランスジェニックマウスを作製するため、その費用に充てる。さらに、甲状腺の分化マーカーに対する抗体の購入、ならびにコンディショナルトランスジェニックマウスに形成された甲状腺乳頭がんのマイクロアレイを用いた網羅的遺伝子発現解析に使用する。
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Research Products
(3 results)