2014 Fiscal Year Research-status Report
種子の糊粉層と表皮の発達・維持に関わる新たな遺伝子の機能解析
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25440142
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Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
川上 直人 明治大学, 農学部, 教授 (10211179)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 種子 / 胚乳 / 糊粉層 / 表皮 / 細胞分化 / 小胞輸送 / クラスリン被覆小胞 |
Outline of Annual Research Achievements |
2013年度の研究から、種子糊粉層の消失と芽生えの形態異常をもたらすtrg2突然変異はTRG2A遺伝子に支配されることを明らかにした。2014年度ではTRG2Aの生理機能と分子機能を解明する実験に着手した。 TRG2Aタンパク質の細胞内局在性を明らかにするため、TRG2AとGFPの融合タンパク質を発現する形質転換植物を作成して蛍光を確認したところ、TRG2タンパク質は細胞質で働くことが示された。TRG2Aタンパク質のヒトのホモログも細胞質に局在し、クラスリン被覆小胞に関わる可能性が示されている。そこで相互作用が予測されるクラスリン被覆小胞構成タンパク質をコードする4遺伝子の機能喪失突然変異体を単離したが、単一遺伝子の変異では糊粉層の形成に明確な異常が認められなかった。また、タンパク質相互作用を調べるため、TRG2Aとクラスリン被覆小胞タンパク質を導入した酵母ツーハイブリッド系(Y2H)を構築した。 穀類から見出された糊粉層形成関連遺伝子のシロイヌナズナにおける機能を明らかにするため、AtDEK1, ACR4, CHMP1の機能喪失突然変異体を単離した。いずれの変異体でも糊粉層に明確な異常は認められなかったが、ACR4およびそのパラログであるCCR2の機能喪失突然変異体種子は高温耐性発芽形質を示した。 糊粉層細胞分化過程およびTRG2Aの役割を明らかにするため、ヨウ化プロピジウム染色した発達過程の種子を共焦点レーザー顕微鏡で観察したが、安定して観察に耐える像を得ることができなかった。現在、組織切片を作成して観察を行っている。また、走査型電子顕微鏡で表面構造を観察したところ、種皮と花粉の表面構造に異常を見出した。トルイジンブルー染色では芽生えのクチクラ層形成に異常を持つ可能性を示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2013年度の研究からtrg2が単一遺伝子の変異によることが明らかになったことから、当初計画からの変更点も含め、2014年度の計画は比較的スムーズに進行した。特に、原因遺伝子として同定されたTRG2Aがクラスリン被覆小胞で働くと考えられるヒトおよび酵母のタンパク質ホモログであることが明らかになったことから研究のターゲットが明確化し、糊粉層形成・維持における小胞輸送の役割を解析するための具体的な方策を立てることができた。 TRG2Aタンパク質は細胞質基質に存在することを明らかにすることができたが、この局在性はヒトのホモログタンパク質と同様である。TRG2Aがクラスリン被覆小胞で機能することを明らかにすることを目的として、相互作用が期待されるタンパク質の機能喪失突然変異の解析を行うと共に、タンパク質間相互作用解析の系を確立することができた。 穀類において、糊粉層形成関連タンパク質の働きが小胞輸送により制御される可能性が示唆されており、これらのシロイヌナズナにおけるホモログと糊粉層形成・維持との関連解析にも着手した。 シロイヌナズナにおける糊粉層形成過程の解析については、簡便かつ解像度が高いと期待される光学切片の作成を行ったが、安定して高解像度の画像を得ることができなかった。蛍光色素による染色時間などの検討を重ねて改良を試みたが、残念ながら公表に耐える画像は得られなかった。このため、若干計画より遅れているが、現在組織切片の作成が進んでいる。走査型電子顕微鏡による表面構造の解析では、種子の形態の異常が明確に示された。また、花粉の形態および表面構造に異常が認められ、これが稔性低下の要因である可能性を示すことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
2014年度の研究結果および確立した解析手法を用い、TRG2Aの小胞輸送における機能、糊粉層・表皮形成におけるTRG2Aの機能解析を推進する。 1)糊粉層と表皮形成におけるTRG2Aの機能:正常な種子における胚乳・糊粉層細胞の発達過程を組織切片の観察から明らかにするとともに、trg2およびtrg2a変異が発達のどの段階で、どのような異常をもたらすかを組織・細胞レベルで明らかにする。必要に応じて、透過型電子顕微鏡による細胞・オルガネラレベルの比較解析を行う。また、芽生えでは表皮の異常が認められるため、走査型電子顕微鏡で表面構造を詳細に観察する。 2)クラスリン被覆小胞および小胞輸送におけるTRG2Aの機能:TRG2とクラスリン被覆小胞タンパク質の相互作用を確認するため、Y2Hによる解析を推進する。また、植物細胞内における相互作用を確認するため、BiFC法による解析を試みる。クラスリン被覆小胞タンパク質遺伝子の変異が糊粉層・表皮形成に関わることを確認するため、これまでに単離したパラログの多重変異、およびtrg2との二重変異の解析を進める。エンドサイトーシスにTRG2Aが寄与する可能性を検討するため、全反射蛍光顕微鏡を用いてTRG2Aタンパク質が細胞膜と相互作用する可能性を検討する。さらに、エンドサイトーシス追跡マーカーのFM4-64染色を利用し、trg2突然変異体における小胞輸送異常の検出を試みる。 3)糊粉層形成関連遺伝子の機能解析と細胞内局在性:これまでに単離したパラログの多重変異の解析を進め、ACR4やDEK1がシロイヌナズナ糊粉層形成に果たす役割を明らかにする。また、これらの膜タンパク質をGFPと融合させ、細胞内局在性に対するtrg2変異の影響を明らかにする。
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Causes of Carryover |
研究の進展により、当初計画の一部を変更して実施したため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
試薬および器具(消耗品)の購入に充てる。
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