2013 Fiscal Year Research-status Report
「細胞内発現する人工小型抗体」封入ナノ粒子の血中投与による狂犬病治療法の開発
Project/Area Number |
25450439
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | National Institute of Infectious Diseases |
Principal Investigator |
加来 義浩 国立感染症研究所, その他部局等, 研究員 (70392321)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 狂犬病 / 人獣共通感染症 / 治療 / scFv / intrabody |
Research Abstract |
狂犬病は、狂犬病ウイルス(Rabies virus: RABV)を原因とする人獣共通感染症である。ひとたび発症すると確実な治療法はなく、致死率はほぼ100%である。本研究は、RABVに対する人工小型抗体をRABV感染細胞に導入して、RABVの増殖を阻害することにより、狂犬病の治療法への応用を目指している。初年度には以下の2項目を実施した。 1)RABV蛋白質に対する複数種の小型抗体の作出 ファージディスプレイライブラリーTomlinson I+Jから、RABV-P, -N蛋白質に対する小型抗体(single chain variable fragment; scFv)の遺伝子を複数選択した。これらの遺伝子を細胞内発現抗体(intrabody)として発現させるため、哺乳細胞用発現ベクターpCAGGSにクローニングした。 2)抗RABV小型抗体の細胞内反応性の解析 上記scFvについて、i) 細胞内での標的蛋白質との結合性、ii) RABVの増殖阻害能を解析するために、まず細胞内へのscFv発現ベクターの高効率導入系を検討した。マウス神経芽腫由来MNA細胞およびヒト胎児腎臓由来HEK293T細胞に対して、リポフェクション法(Lipofectamine LTXおよびFugene HD),エレクトロポレーション法(Lonza社Amaxa nucleofector)を検討したところ、HEK293T細胞にFugene HDを用いた場合に、もっとも導入効率が高く、細胞への傷害性が低かった。これまでに、抗RABV-P scFvの1クローン(P19)を導入したHEK293T細胞にRABV(CVS11株)を感染させ、感染細胞内におけるRABV-P蛋白質との結合性を蛍光抗体法および免疫沈降法により確認した。さらに、scFv-P19発現細胞/非発現細胞にRABV(CVS11株)を感染させて、ウイルス増殖を比較したところ、同クローンがRABVの増殖阻害能力を有することが明らかになった。他のクローンについても、現在解析を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成25年度の研究では上述の2項目に関して実施した。このうち、「1)RABV蛋白質に対する複数種の小型抗体の作出」については、ファージディスプレイライブラリーTomlinson I+Jに対して、一般的なパンニング法に加え、近年開発されたSignalobody法を併用することにより、RABV-P, -N蛋白質に対する複数のscFv遺伝子をクローニングできたことから、計画通りに進行したと考えている。 また「2)抗RABV小型抗体の細胞内反応性の解析」については、小型抗体(scFv)を細胞内に安定かつ高効率に導入/発現させることが不可欠であることから、まず細胞内へのscFv遺伝子発現ベクターの導入法を確立することが課題となった。当初の計画ではMNA細胞に対して、エレクトロポレーション法(Lonza社Amaxa nucleofectorを使用)を実施する予定だったが、クローンによっては同法により激しい細胞傷害性を示したことから、リポフェクション法に変更した。2種類のリポフェクション用試薬(Lipofectamine LTXおよびFugene HD)をMNA細胞とともに、pCAGGSベクターが高発現することで知られるHEK293T細胞に応用した。導入効率/発現効率/細胞傷害性を総合的に比較した結果、Fugene HDを用いてHEK293T細胞に導入すると、もっとも高効率にscFvを導入/発現でき、細胞傷害性も低いうえ、scFvの発現は少なくとも導入後4日間は継続して観察できた。当初の計画からいくつかの変更点があったが、今年度の研究により、scFvの細胞内反応性の解析に必要な手法は確立できたことから、おおむね計画通りに進行したと考えている。現在、これらの手法を用いて細胞内反応性の解析を進めており、近日中に結果が得られる予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
「1)RABV蛋白質に対する複数種の小型抗体の作出」については、現在も異なるRABV蛋白質に対する新たなscFv遺伝子のクローニングを継続して進めていることから、今後さらに多くのクローンを用いて、細胞内反応性の解析/RABV増殖阻害能力を解析する予定である。 「2)抗RABV小型抗体の細胞内反応性の解析」については、得られたscFvクローンを導入したHEK293T細胞にRABV(CVS11株)を感染させ、感染細胞内における標的蛋白質との結合性を蛍光抗体法および免疫沈降法により確認する。さらに、scFv発現細胞/非発現細胞にRABV(CVS11株)を感染させ、scFv発現細胞でRABVの増殖が有意に阻害されるか否かを解析する。また、scFvクローンのうち、ウェスタンブロッティングでリニアエピトープを認識することが確認できたものについては、マイクロアレイ等を用いてエピトープマッピングを行い、その結果からscFvの作用機序を推測する。また作用機序の異なるクローンを併用することにより、RABV増殖阻害能力が相乗的に向上するかを確認する。 本年度は新たに、scFvの脳へのデリバリー法の検討を始める。これまでにRABV-G蛋白質由来のペプチド29残基(RVG29)を血中に投与すると、血液脳関門(BBB)を越えて広範囲の脳実質へ移行することが報告されており、すでに脳への薬剤デリバリーの研究に応用されている。この手法を応用して、本研究ではRVG29を外套したナノ粒子の内部にscFvまたはscFv発現プラスミドを封入し、血中投与により治療効果を発揮するデリバリー系を構築する計画を立てていた。しかし最近、RVG29と発現ベクターを混合して作製した複合体が、脳へ特異的にデリバリーされるとの報告があった。RVG29/ベクター複合体法は、ナノ粒子封入法に比較し、簡便なうえコストも低いことから、本年度はRVG29/scFv発現ベクター複合体を神経細胞に導入し、in vitroにおける神経細胞特異的なデリバリー法の確立を目指す。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本年度は、抗RABV小型抗体の細胞内反応性の解析の一環として、エピトープマッピング用のマイクロアレイスライドを購入する計画を立てていた。これらのスライドは本年度末から次年度初頭にかけて使用する予定でいたが、現在も新たなscFvクローンが継続的に得られていることから、次年度中盤以降に全scFvクローンをまとめて解析する方針に変更した。マイクロアレイスライドは使用期限が決まっていることから、購入を次年度に繰り越すことにした。また神経細胞特異的デリバリーに用いるナノ粒子用のペプチドを複数購入する計画を立てていたが、デリバリー法をナノ粒子封入法から、RVG29/ベクター複合体法に変更したため、必要となるペプチドの設計を全面的に見直している。そのためペプチドの購入を次年度に繰り越した。 抗RABV小型抗体の細胞内反応性の解析の一環として、エピトープマッピング用のマイクロアレイスライドを購入する。また、神経細胞特異的デリバリーに用いるRVG29/ベクター複合体法の実施に必要となるペプチドを複数種購入する。
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