Research Abstract |
歯周病は, 主に細菌の一種Porphyromonas gingivalis (Pg) の感染によって起きる疾患である。Pgは, その産生する毒素「ジンジパイン」で歯周組織を破壊しながら, 歯と歯茎の間に深く侵入する。その後, 血管内へ到達したPgは, ときに動脈硬化や糖尿病を誘発するほか, 関節リウマチや非アルコール性肝炎発症のリスクファクターともなっている。 研究者代表者は, 最近, 麹菌Aspergillus (A.) oryzae S-03が, 特定培養条件下でジンジパイン活性に対する阻害物質をつくることを発見した。本研究では, S-03株以外の麹菌 (A. sojae No. 9, A. kawachii SH46, A. awamori SH41も対象とし, 空豆, 丸大豆, 脱脂大豆, 醤油原料 (脱脂大豆と小麦の1:1混合物), ピーナッツ, 米, 大麦などの穀類及び豆類を用いて麹を作り, その麹エキス(麹の水抽出物)に含まれるジンジパイン阻害物質(GPI)及び抗Pg活性物質(抗菌物質)の生産性の有無を調査した。 これまでに, ① 醤油原料を用いてA. oryzae S-03を培養し, 得られた麹エキスにGPIが最も含まれることを見出した。② 脱脂大豆麹エキスに含まれるGPIは低分子(15 kDa以下)で, かつ, 熱安定性を示すが, 醤油麹エキスに含まれるGPIは, 前者に比べ高分子(15 kDa以上)であり, かつ, 熱安定性が低い。③ 抗Pg活性物質はいずれの原料による麹エキスをでも, 熱処理(100℃, 10 min)に対し不安定である。④ 醤油麹エキス1に対して3 倍容量のエタノールを加えて生ずる沈殿物中には, GPIと抗Pg活性物質のほか, 抗ピロリ活性物質(ピロリ菌の増殖を阻害する物質)も含まれている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究代表者は, 脱脂大豆を用いて麹菌A. oryzae S-03を固体培養すると, 歯周病の起因菌Porphyromonas gingivalis (Pg) がつくる毒素「ジンジパイン」に対する阻害物質を産生することを発見したことが本研究を推進する契機となった。このジンジパイン阻害物質 (GPI) は, 抗生物質とは異なり, 耐性菌を生じさせないと考えている。本研究では,「GPIを利用した歯周感染症予防治療薬」の実用化を目指し, これまでに, 安全性の評価項目の1つとして, GPIには変異原性がないことを明らかにした。更に, 脱脂大豆よりも, 醤油原料(脱脂大豆および小麦の1:1混合物)を用いて麹菌A. oryzae S-03を固体培養し, 得られる麹エキスに高いGPI活性物質が含まれることを明らかにした。
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Strategy for Future Research Activity |
H25年度の研究により, 今後使用する麹菌はA. oryzae S-03に特定することとした。また, 脱脂大豆及び醤油原料(脱脂大豆と小麦の1:1混合物)を用いて, S-03株を固体培養し, 得られた各麹エキスから, ① GPIを効率よく精製する方法を確立する。② GPIの物理化学的, 生化学的諸性質と阻害メカニズムを解明する。 歯周病患者は, 歯周組織のコラーゲンが50~70%ほど減少している。一方, Pgはコラーゲン分解酵素 (コラゲナーゼ)も産生するので, 歯周病患者の口腔内コラーゲン量が減少するのは, Pg由来のコラゲナーゼにより分解されたためである可能性が高く, 他の研究グループにより, Pgのジンジパイン産生能を抑えると, Pgのコラゲナーゼも発現しなくなるとの報告がなされている。これらの知見に基づき, ③ GPIの添加により, Pgのコラゲナーゼ産生能が消失するか否かを検証する。
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