2014 Fiscal Year Research-status Report
服薬コンプライアンス評価法としての毛髪薬物濃度測定法の開発
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25461521
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
岩田 敏 慶應義塾大学, 医学部, 教授 (10129348)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | HIV / 薬剤定量 / 毛髪中薬剤定量 / ツルバダ / テノフォビル / エムトリシタビン |
Outline of Annual Research Achievements |
現在抗HIV剤として、逆転写酵素阻害剤、プロテアーゼ阻害剤、インテグラーゼ阻害剤、CCR-5阻害剤など、作用機序が異なる多くの薬剤が用いられている。血液中抗HIV剤濃度の測定は、治療効果の最適化とHIVの薬剤耐性獲得の防止のために重要である。しかし、薬剤の代謝は個人差があり、また薬剤血中濃度は日内変動が大きいことが知られている。一方、毛髪中の薬剤量は平均的な薬剤血中濃度を反映していると考えられており、毛根側から先端にかけて薬剤量を測定することにより血中濃度の長期的推移を推定できることが期待される。 抗HIV剤の一つであるツルバダは、逆転写酵素阻害剤であるテノフォビルとエムトリシタビンの合剤であり、服薬が1日1錠であることから、現在HIV治療のバックボーンドラッグとして国内で広く用いられている。昨年度我々はLC-MS/MS(liquid chromatography- tandem mass spectrometry)を用いたテノフォビル定量法を確立したが、今年度は同様にエムトリシタビン定量法を確立した。 LC-MS/MS機器は昨年度と同様にLCMS-8030(SHIMADSU)を用い、LCカラムはInertsil ODS-3 C18 カラム(GLサイエンス)、移動相として水層に5 mMギ酸、有機溶媒相に5 mMギ酸/アセトニトリルを用いた。流速は0.2 ml/min、測定時間は20分とした。濃度勾配は有機溶媒濃度0%で開始し、1分毎に5%ずつ10分で50%まで上昇させ、その後すぐ0%に戻し、0%のまま20分まで継続させた。 エムトリシタビン定量法の検出限界と定量限界の検討を行うため、精製されたエムトリシタビンを移動相で段階希釈し、既知濃度のエムトリシタビンの検出と定量を行った。その結果、エムトリシタビンはおよそ1 pgから検出可能であり、3 pgから定量可能であった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究は3年計画であり、1年目は精製された薬剤を用いたLC/MS-MSでのテノフォビル定量法の確立、2年目は健常人の毛髪を用いた毛髪からの薬剤回収法の確立、3年目は治療者の毛髪を用いた薬剤の測定を予定している。2年目終了時点でテノフォビルおよびエムトリシタビン測定系のプレカーサーイオン、プロダクトイオン、カラム、移動相、流速、濃度勾配等の条件検討、また測定系の検出および定量限界の検討を終えており、LC-MS/MSを用いたテノフォビルおよびエムトリシタビンの定量法は確立されている。しかし毛髪からの薬剤回収法として考えていたジルコニアビーズを用いた回収法は、内部コントロールとして用いたAZTでは80%の回収率が得られたものの、テノフォビルはビーズによる破砕時、エムトリシタビンでは乾燥による回収時の問題により薬剤回収法を確立することができなかった。そのため、研究はやや遅れていると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
3年目の研究計画として治療者の毛髪を用いた薬剤の測定を予定していたが、薬剤回収法の確立が遅れているため、並行して治療者毛髪の採取を行い、回収法が確立した時点で毛髪中薬剤の測定を行う。治療者毛髪の採取に関しては既に慶應義塾大学医学部の倫理委員会から承認を受けている。テノフォビルおよびエムトリシタビンが回収できない原因として、薬剤がチューブ壁に吸着している可能性が考えられるため、現在用いているメタノールに変えて弱アルカリの溶液を用いた回収溶液の検討を行う予定である。
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Causes of Carryover |
本研究では、1年目は精製された薬剤を用いたLC/MS-MSでのテノフォビル定量法の確立、2年目は健常人の毛髪を用いた毛髪からの薬剤回収法の確立、3年目は治療者の毛髪を用いた薬剤の測定を予定している。2年目終了時点でテノフォビルおよびエムトリシタビン測定系のプレカーサーイオン、プロダクトイオン、カラム、移動相、流速、濃度勾配等の条件検討、また測定系の検出および定量限界の検討を終えており、LC-MS/MSを用いたテノフォビルおよびエムトリシタビンの定量法は確立されている。しかし毛髪からの薬剤回収法として考えていたジルコニアビーズを用いた回収法の確立は未達成である。 上記の点から、関連学会で発表するに至らなかったことに加えて、既存の設備を利用できたこと、材料費の執行が年度末になってしまい2年目の報告に含められなかったこと、などから予算の執行が少なくなった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
3年目の研究計画として治療者の毛髪を用いた薬剤の測定を予定していたが、薬剤回収法の確立が遅れているため、並行して治療者毛髪の採取を行い、回収法が確立した時点で毛髪中薬剤の測定を行う予定である。なお、治療者毛髪の採取に関しては既に慶應義塾大学医学部の倫理委員会から承認を受けている。 薬剤回収法の確立には様々な検討がさらに必要になると考えられ、そのための物品費、人件費、関連学会に係る旅費、論文投稿に必要な費用等に、助成金を適切に使用していく予定である。
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