2013 Fiscal Year Research-status Report
心停止下ドナーによる肝移植のための新規保存液を用いたグラフト灌流保存法の開発
Project/Area Number |
25461939
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Asahikawa Medical College |
Principal Investigator |
谷口 雅彦 旭川医科大学, 医学部, 准教授 (30374333)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
古川 博之 旭川医科大学, 医学部, 教授 (70292026)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 心停止下ドナー / 肝移植 / 保存障害 |
Research Abstract |
本研究は心停止ドナーによる肝移植の実現を最終ゴールとし、心停止肝グラフトにおける温阻血・冷保存障害、さらには灌流保存障害の機序を解明し、最終的に大動物肝移植モデルで低温酸素化灌流(Hypothermic Oxygenated Perfusion; HOPE)を用いた臓器修復法を確立することを目的として開始した。本年度はA)ラット正常肝および心停止肝の冷保存におけるHOPEの至適条件の検討とそのグラフト保護効果の機序の解明、B)ブタ心停止肝移植モデルの作成を行った。 A)ラット正常肝の48時間冷保存、単離肝灌流による再灌流のモデルにおいて、単純冷保存後のラット肝に対するHOPEの臓器修復効果を検討した。1)既存のUW-MP液を用いると、単純冷保存のみの場合に対する優位性は認められなかった。2) 再灌流時に水素ガスを投与すると再灌流障害が軽減された。3)得られた肝組織を用いてタンパクのリン酸化動態、酸化ストレスマーカー(8-OHdG, 4-HNE)を解析すると、水素ガスは酸化ストレスを軽減するとともに、門脈循環を改善することが判明した。 B)ミニブタを用いて肝移植を13例施行した。心停止下肝移植は10例施行。心停止後ドナー肝に対しHOPEを2例に導入した。心停止なしでの肝移植例では生存するものの、60分心停止に伴う温阻血障害と臓器摘出後4時間の冷保存障害を受けた肝グラフトを移植モデルでは、強い虚血再潅流障害に合併するアシドーシス・肺障害・播種性血管内凝固症候群により再潅流後3~6時間で心停止をきたした。 60分心停止モデルのうち、2例でフサンを用いて虚血再潅流障害に対する治療を施行したもの、生存時間や血液・組織学的な効果は明確ではなかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本課題の研究計画では本年度は、 A)ラット心停止肝冷保存・単離肝灌流モデルにおいて、オリジナルの重水含有緩衝液、低温酸素化灌流(HOPE)、水素ガスを組み合わせて低温酸素化灌流(HOPE)の至適条件を明らかにし、ブタでの検討に用いる灌流保存の最終条件を決定することであった。そこでラット単純肝冷保存モデルにおいて、1) 単純冷保存におけるUW 液に対する重水液の優位性と保存限界時間の検討、2) HOPE におけるUW-MP 液に対する重水液の優位性の検討、さらに、3) HOPE 時水素ガスの併用効果、4) 再灌流時水素ガスの併用効果の解明を行った。しかし時間・予算・人員的な問題で心停止肝冷保存モデルの検討までは遂行できなかった。 B)一方、来年度以降の研究に向けて、ブタでの心停止下肝移植モデルを作成したが、心停止60分に伴う温阻血障害と低温機械灌流保存に伴う冷保存障害を受けた肝臓の移植は強い虚血再潅流障害により急性グラフト不全のみならず致死的な状態となり、移植後のグラフト機能評価を十分に行うことは困難であった。今回の移植後の強い虚血再潅流障害は心停止60分に起因するものが主と考えられ、この温阻血障害に対する薬物等による軽減策を先に別途検討する必要があると考えられた。
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Strategy for Future Research Activity |
A)長時間単純冷保存したラット正常肝を修復する至適条件が比較的早い時期に確定できる見込みである。その後、心停止肝モデルで同様の修復灌流を行い、有効性を検証し、保護メカニズムを解明する予定である。重水と水素が細胞保護を担うシャペロンとどのように相互作用するかを、肝を構成する各種の初代培養細胞、肝細胞株で検討する。また、既存のUW-MP液では低温酸素化灌流(HOPE)の肝修復効果は示されなかったことから、修復灌流前の状態を改善する新規臓器保存液が必要となる可能性があり、自作の新液(重水液)の保護効果、再現性を確保する必要がある。また、新液がHOPEにも有効であること、水素ガスと併用効果があること、シャペロン分子の動態、等のpreliminary実験を早急に検討し、本実験に移行する。 B)今回の検討で、ブタの心停止下肝移植モデルでは①温阻血障害と②低温機械灌流保存に伴う冷保存障害の二つの強い障害によって移植後のグラフト機能評価を十分に行うことが困難であることが判明したことから、まずは肝完全血流遮断(Total Hepatic Vasculature Exclusion)の手技を用いて、肝臓の温阻血障害のみのモデルを作成し、同障害が誘発する強い虚血再潅流障害に絞って、薬物による同障害軽減策を検討する。その後心停止肝移植モデルにおいて本来の目的であるHOPEを用いた臓器修復法を確立することを検討する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本年度購入を予定していた大動物実験で使用する物品の購入を見送り来年度に購入する予定としたために次年度使用額が生じた。 来年度に大動物実験で使用する物品を購入予定である。
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