2013 Fiscal Year Research-status Report
BAP1変異による食道癌発癌の機構解明と分子標的薬適応の可能性の検討
Project/Area Number |
25462010
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
森 隆弘 東北大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (00323030)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
千葉 奈津子 東北大学, 加齢医学研究所, 准教授 (50361192)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | がん抑制遺伝子 / 食道扁平上皮癌 |
Research Abstract |
悪性黒色腫や悪性中皮腫で高率にBAP1遺伝子変異が同定されることが報告されている。我々は28例の食道癌切除標本(正常部および腫瘍部)を解析し、このうち2例にBAP1遺伝子変異を同定した。いずれも、これまでに報告されたSNPsとは一致しない。1例においては、BAP1の脱ユビキチン化酵素活性を担う領域の、種間で極めて高度に保存されている残基であるフェニルアラニンがイソロイシンに置換する点突然変異が体細胞変異として同定された。このBAP1変異体の脱ユビキチン化酵素活性を検討したところ、野生型と比較して、脱ユビキチン化酵素活性が著しく低下していることが明らかになった。変異特異的な脱ユビキチン化酵素活性の著明な低下による網羅的な遺伝子発現調整への影響をマイクロアレイ法により検討したところ、多くの遺伝子発現に再現性を持って影響があることが確認された。特に再現性をもって変動が大きかった遺伝子に着目し、現在、western blot法で確認実験を行っているが、それらはapoptosis誘導や上皮間葉転換に関係する遺伝子であり、BAP1の未解明な機能の解析に繋がるかもしれない。 また、もう1例のBAP1遺伝子変異は、BAP1遺伝子のイントロン領域に同定された。この遺伝子変異は、正常食道粘膜由来のgenomic DNAにおいても同定され、SNPsまたはgermline mutationである可能性が示唆された。 この変異によるBAP1のmRNA のsplicingへの影響について検討し、この変異により、転写効率が低下することが明らかになった。Real time PCRの手法による大量サンプルでのスクリーニング法を確立し、一般の食道癌患者286例中4例にこの遺伝子変異を同定した。この遺伝子変異あるいは多型は1000 Gene projectでは報告されていないためChi二乗検定ではp<0.001、Fisherの正確法検定ではp=0.002で有意に食道扁平上皮癌患者と相関があった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究により、BAP1遺伝子変異(あるいは多型)が少なくとも一部の食道癌発癌に関与していることを明らかにすることができた。すなわち、このBAP1変異体の脱ユビキチン化酵素活性を検討したところ、野生型と比較して、脱ユビキチン化酵素活性が著しく低下していることが明らかになった。更に、この変異特異的な脱ユビキチン化酵素活性の著明な低下による網羅的な遺伝子発現調整への影響をマイクロアレイ法により検討したところ、多くに遺伝子発現に再現性を持って影響があることが確認された。特に再現性をもって変動が大きかった遺伝子に着目し、現在、western blot法で確認実験を行っているが、それらはapoptosis誘導や上皮間葉転換に関係する遺伝子であり、BAP1の未解明な機能の解析に繋がるかもしれない。 さらに、もう1例のBAP1遺伝子変異は、BAP1遺伝子のイントロン領域に同定された。この遺伝子変異は、正常食道粘膜由来のgenomic DNAにおいても同定され、SNPsまたはgermline mutationである可能性が示唆された。そこでまず、この変異によるBAP1のmRNA のsplicingへの影響について検討した。その結果、この変異により、エクソン10の転写効率が低下することが明らかになった。この遺伝子変異または多型に特異的なPCRプライマーを作成し、Real time PCRの手法による大量サンプルでのスクリーニング法を確立した。迅速かつ簡便なスクリーニング方法で、血清genomic DNAでの変異あるいは多型を検出することにより、将来の食道扁平上皮癌発生のリスクを予測することが出来れば早期発見が可能となり、個人および社会にとって、極めて意義の大きいと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究により、BAP1遺伝子変異(あるいは多型)が少なくとも一部の食道癌発癌に関与していることを明らかにすることができた。また、上記のようにBAP1の新たな発癌抑制機構の機能解明に繋がる可能性も見いだされてきた。さらに、迅速かつ簡便なスクリーニング方法で、血清genomic DNAでの変異あるいは多型を検出することにより、将来の食道扁平上皮癌発生のリスクを予測することが出来れば早期発見が可能となり、個人および社会にとって、極めて意義の大きいと考える。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
上記のように研究そのものは進行しており、学会発表と特許取得に繋がっている。報告にも記載したように、マイクロアレイ解析の結果から、BAP1の新しいがん抑制機能の解明に繋がるかもしれない、EMTあるいはapoptosisとの関連が示唆された。このため、それらに関する実験の設定、特に抗体の条件検討などに時間を要しており、それにより研究の一部が進行していない状態である。その結果、その後の研究の方針が未確定になっているため、未使用金が生じた。 上記のように、現在、BAP1のいくつかの新しい機能についての研究の方向性を探るために、いくつかの抗体での条件設定を行っている。今後、条件がうまく設定出来れば、その方向に研究を進めて行く。例えば細胞腫器調整とアポトーシス関連機能の障害の可能性が認められれば、FACS解析などを行うことになる。EMTの可能性が見いだされれば、EMT関連の蛋白発現解析、例えばSNAI2などの抗体を購入しwestern blot解析を行う必要が出る。これらの解析に必要である。これらの解析により、これまでBAP1についてはEMTやapoptosisのいずれについても報告は無く、新規の発見に繋がる可能性はある。これらの結果により成果発表の目的の旅費にも使用される。
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Research Products
(2 results)