2013 Fiscal Year Research-status Report
糖尿病患者における血管グラフトれん縮増大の分子メカニズムの解明
Project/Area Number |
25462154
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Research Institution | Kyushu University of Health and Welfare |
Principal Investigator |
山本 隆一 九州保健福祉大学, 薬学部, 教授 (10094111)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
蒲生 修治 九州保健福祉大学, 薬学部, 准教授 (20273930)
金井 祐 九州保健福祉大学, 薬学部, 助教 (20551295)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 糖尿病 / 冠動脈れん縮 / セロトニン受容体 / セロトニン / 伏在静脈 / 冠動脈バイパス手術 / ミオシン軽鎖 |
Research Abstract |
我々は、糖尿病患者の摘出内胸動脈や伏在静脈のセロトニンに対する血管反応性と細胞内シグナル伝達機構の変化を非糖尿病患者と比較することによって、冠動脈バイパス手術において糖尿病がグラフトれん縮増大の大きなリスクファクターであることを明らかとしてきた。 その中で、糖尿病血管では、平滑筋のミオシン軽鎖脱リン酸化酵素(MLCP:収縮した血管を弛緩させる役割を担う酵素)の量的および質的障害が引き起こされていること。また、インスリンには、セロトニン2A (5-HT2A)受容体を血管平滑筋細胞膜から細胞質に引き込むインターナリゼーション作用を有することなどの現象を報告してきた。 平成25年度の研究では、糖尿病血管におけるミオシン軽鎖脱リン酸化酵素の量的障害について、その分子メカニズムを検討した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
我々は、糖尿病患者では、収縮した平滑筋細胞を弛緩させる役割を持つ細胞内酵素であるミオシン軽鎖脱リン酸化酵素が、非糖尿病患者と比較して総蛋白質量で減少していること、また減少後に残った酵素の活性も低下していることを報告している。 平成25年度の研究では、糖尿病血管におけるミオシン軽鎖脱リン酸化酵素の蛋白量低下について、量的障害とその分子メカニズムを明らかにするため、この酵素のmRNAの発現過程、蛋白翻訳過程が糖尿病により障害されているのか、または酵素蛋白の分解過程が亢進しているのか検討した。具体的には、糖尿病患者の血管と非糖尿病患者の血管を用い、ミオシン軽鎖脱リン酸化酵素のサブユニットの一つであるMYPT1のmRNAの発現量をRT-PCR法で検討し、mRNAの発現過程の障害ではないことを確認した。しかし、糖尿病患者の血管サンプル数が予想よりも少なかったため、ミオシン軽鎖脱リン酸化酵素の転写障害なのか分解過程の促進なのかについては、検討できていない。 今年度の実験結果から、糖尿病血管と非糖尿病血管においてMYPT1のmRNAの発現量に変化がないことなどから、ミオシン軽鎖脱リン酸化酵素蛋白の転写障害または蛋白の分解過程の亢進が糖尿病血管の収縮性増大の機序として重要であることが示唆された。
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Strategy for Future Research Activity |
平成26年度の研究では、糖尿病血管におけるミオシン軽鎖脱リン酸化酵素の蛋白量低下および酵素活性低下について、それらの分子メカニズムを明らかにする。 具体的には、前年度計画のミオシン軽鎖脱リン酸化酵素蛋白の転写障害または酵素蛋白の分解過程の亢進のどちらが重要なのか検討する。さらに、H26年度はミオシン軽鎖脱リン酸化酵素の酵素活性低下と細胞内情報伝達系の変化との関連を明らかをする。実験には、糖尿病患者の血管と非糖尿病患者の血管を用い、マグヌス法において種々の細胞内情報伝達物質の阻害薬を用い、セロトニンに対する収縮反応性の相違を張力変化で測定すると共に、それらの相違と種々の細胞内情報伝達分子変動をウエスタンブロットにより測定し両者との関連を調べる。ミオシン軽鎖脱リン酸化酵素の酵素活性は、ミオシン軽鎖脱リン酸化酵素のサブユニットの一つであるMYPT1のリン酸化率で測定する。 最近、我々の研究室では、糖尿病患者の摘出伏在静脈において、アンギオテンシンIIに対する血管反応性が非糖尿病患者の血管に比較して有意に増大することを見出している。血管平滑筋のセロトニン2A受容体もアンギオテンシンII(AT1)受容体もGタンパク共有型受容体であることから、同じメカニズムで収縮反応を増強している可能性がある。そこで、次年度研究予定の受容体のインターナリゼーションのメカニズムを含めて解明するためにアンギオテンシンIIに対する基礎データも収集する。この糖尿病患者の血管におけるアンギオテンシンIIの収縮増強反応は、セロトニンに対する収縮増強反応よりも明らかに大きい反応である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本研究においては、書面で同意を得られた糖尿病患者そして非糖尿病患者から冠状動脈バイパス手術で使用しなかった部分の血管の提供を受け、実験に供している。今年度の当初計画では、糖尿病患者と非糖尿病患者の血管を用い、糖尿病が血管の収縮反応に関与するミオシン軽鎖脱リン酸化酵素の発現量に影響を及ぼすのかを検討する予定であった。しかし、病院より提供される糖尿病患者の血管サンプル数が予想外に少なく、年度内に必要数を確保することができなかった。 予定していた実験をH26年度に実施するため予算の繰越をおこなっている。H26年度の計画に加えて、糖尿病患者と非糖尿病患者の血管を用い、糖尿病が血管の収縮反応に関与するミオシン軽鎖脱リン酸化酵素の発現量に影響を及ぼすのかを検討する。
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