2016 Fiscal Year Research-status Report
西欧文化の日本での受容・変容・再発信の過程―文学における幻想性・怪奇性を中心に
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25511017
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
下楠 昌哉 同志社大学, 文学部, 教授 (90329532)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 英文学 / 幻想文学 / 文化交流 |
Outline of Annual Research Achievements |
アメリカの大学の出版局から出版された論文集に論文が収録された。(書誌情報の詳細は、"An Anime Dullahan: The Irish Death Messenger Adapted in Japanese Popular Culture," Supernatural Revamped: Timeworn Legends to Twenty-first Century Chic, ed. Barbara Brodman and James E. Doan, Madison: Fairleigh Dickinson University Press, 2016, 133-44)。アイルランドの民話に登場する妖精であるデュラハンが、いかにして日本のアニメ『デュラララ!!』に登場するようになったかを論じた。この妖精はアイルランドでもそれほど有名な妖精ではないが、日本の各種テレビゲームでキャラクターとして活用され、ライトノベル『デュラララ!!』で重要な登場人物として取り上げられ、さらにそのライトノベルがアニメ化されることで、日本の特定の世代の人々には大いに知られることとなった。このアニメのDVDは海外への発信を意識して、英語の吹替が収録されている。 論文集『幻想と怪奇の英文学II-増殖進化編』(春風社)を共同責任編集した。この論文集は全体として、現代の日本の英文学者が「幻想」「怪奇」という言葉を聞いて想起する英米文学作品の実例を並べたショーケースとなっている。自身のジェイムズ・ジョイスの「姉妹」の翻訳と西洋怪奇文学紹介者の草分け、平井呈一についての東雅夫との対談も収録した。 アイルランドのコーク大学で開催された国際アイルランド文学協会(IASIL)大会にて、平成28年年7月29日に、ブラム・ストーカー作『ドラキュラ』の平井呈一翻訳の特性およびその後の世代における影響について発表した。タイトルは、"An Impact of Translation: Styles and Rhythms of Traditional Oral Performances in Hirai Teiichi’s Translation of Bram Stoker’s Dracula"。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年度は海外の論文集に論文を一編寄稿し、論文集を刊行し、海外の学会にて発表した。アウトプットに関しては、「当初の計画以上に進展している」と評価してもよいと思われる。日本のアニメなどのポップカルチャーに受容されたアイルランドの妖精デュラハンを扱った論文は、当初計画には含まれていなかった研究成果である。論文集『幻想と怪奇の英文学II-増殖進化編』は『週間読書人』『図書新聞』などの媒体の書評で取り上げられて反響を呼び、研究成果を広く一般に知らしめることに成功した。平井呈一についての海外の研究発表には好意的なリアクションが複数あり、当時リメリック大学所属のジャック・フェネル博士とは、アイルランドで再会して研究情報の交換などを行った。 研究開始時に計画していた海外の大学への在外研究は、所属の事情などにより当初計画より時期がずれることとなったが、平成28年9月1日~11月15日までアイルランド国立ユニヴァーシティ・カレッジ・ダブリンで研究活動を行い、一時帰国してアイルランドの研究成果の整理と次の場所への研究準備を行った後、現在はハワイ大学マノア校日本研究センターのVisiting Colleagueとして、研究活動を行っている。 ハワイ大学においては、パトロンとして受け入れてくださった研究者が日本の明治期以降の文学を専門とするKen K. Ito教授であるため、アメリカにおける日本文学および幻想文学研究についての資料の収集と分析を中心に研究活動を行っている。ただし、昨年度の進捗状況の報告でははっきりした見通しが立てられなかったハワイにおける日本文化の受容の現況については、ハワイ大学での日本文学教育の状況、同大学日本文化センターの活動、ハワイの日本アニメ・漫画の祭典であるカワイイ・コン2017の視察などを通じて、研究報告の作成ができる見通しが現在ではたてることができている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年8月31日までは、ハワイ大学マノア校日本研究センターのVisiting Colleagueとしての研究を遂行する。同大学の日本文学教育のカリキュラムと現況を調査し、研究ノートにまとめる。その論考においては、日本研究センターが開催する学内イベントや、現地で見分した日本文化の受容の様子などについても適宜言及する。また、現地での主要研究テーマである、英語圏における日本文学における幻想性の扱いについての研究を進める。これまでのところ、日本の英文学研究においてはほとんど精査されることのない文学における幻想性が、英語圏の文学研究全体において、特に1980年前後に集中的に論議されていたことが確認できた。その時代に確立した研究成果がどのように後の世代の、特に日本文学の研究者たちに活用されてきたかについて、研究を深化させる。 平成29年10月14-15日に近畿大学において開催される日本アイルランド協会日本支部(IASIL Japan)の大会において、平成28年9月1日~11月15日にアイルランド国立ユニヴァーシティ・カレッジ・ダブリンで行った研究の成果を発表するために、研究発表に応募する。超自然的な幽霊としてジェイムズ・ジョイス『ユリシーズ』に登場する主人公ブルームの子どもが、日本の読者には見逃されがちな、アイルランドの宗教的伝統に則って描かれている様子を精査する。 平成30年3月14-18日にかけてアメリカ、フロリダ州オーランドで開催される芸術における幻想性に関する国際学会(The International Association for the Fantastic in the Arts)大会での研究発表を目指す。研究発表内容は、昨年の成果である平井呈一研究の延長線にあるものとするか、現在行っているハワイ大学マノア校における研究成果とするか、現在検討中である。
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Research Products
(3 results)
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[Book] Supernatural Revamped: Timeworn Legends to Twenty-first Century Chic2016
Author(s)
Barbara Brodman, James E. Doan, Masaya Shimokusu, C. Austin Hill, Scott Culpepper, Paul E.H. Davis, Kathleen W. Taylor Kollman, Darren Hibbs, Andrea Shaw Nevins, Tommy Kuusela, Claudia Schaefer, Raul Rodriguez-Hernandez, Ashley Szanter, Sarah Heaton, Jessica E. Birch, Simon Bacon et al.
Total Pages
262+xii(担当箇所pp.133-144)
Publisher
Fairleigh Dickinson University Press
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[Book] 幻想と怪奇の英文学II-増殖進化編2016
Author(s)
下楠昌哉、東雅夫、田多良俊樹、鈴木暁世、小川公代、岩田美喜、白川恵子、大沼由布、小宮真樹子、遠藤徹、石井有希子、桃尾美佳、有本志保、川島健、高橋路子、金谷益道、小川真理、金津和美、山口和彦、臼井雅美
Total Pages
478(担当箇所pp.16-36, pp.405-431, pp.473-478)
Publisher
春風社