2014 Fiscal Year Research-status Report
狭小低家賃住宅の社会住宅化を通じた日本的ジェントリフィケーションの唱導
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25560150
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Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
水内 俊雄 大阪市立大学, 都市研究プラザ, 教授 (60181880)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 狭小低家賃住宅 / 社会住宅 / ジェントリフィケーション / 居住福祉 / ホームレス |
Outline of Annual Research Achievements |
研究チームメンバーは、今回はより拡大し、若手の研究員も加わる形で共同調査チームが再編成され、地理学、社会学、建築学、居住福祉学を専門とする研究者に加え、アートマネジメント、コミュニティオーガナイザーなとの実践家の本格的参画が得られ、中間報告としてのアウトプットを書籍として出すことができた。『都市大阪の磁場―変貌するまちの今を読み解く』(大阪公立大学出版会)である。 全体の調査設計は3つの分野から構成されているが、このアウトプットは第2のアプローチ、一般的に大阪市を中心に進むインナーシティや部分的に都心部にも見られる、ここで称する日本型ジェントリフィケーションの相互比較を行う調査チーム②の研究成果となった。狭く西成区だけにはとどまらず、大阪市内のインナーシティでみられるユニークなまちづくり事例を、コンパイルしたものである。各調査チームの個別の調査研究事例を、研究ミーティングで相互に検討しながら、そこでは第3のアプローチ、理論的な貢献ということで、ジェントリフィケーションの日本への適合性への議論も行われた。欧米型のジェントリフィケーションのパターンは少なくとも大阪では見られないが、東京とはまた異なるアプローチが必要であり、こうした議論は、都市研究プラザ主催の国際コロキアムでも濃密なディスカッションが行われ、理論的な位置づけに関する意見交換を行った。 一方、西成特区構想に関わることで連動して得られた成果も、新しい調査チームから生み出された。第1のアプローチである、単身高齢の生活保護受給者を中心とする密集住宅地域における生活保護の住宅扶助を基準に構成される住宅市場について、住宅のリモデリングを通じて進行する物理的ジェントリフィケーションの実態を明らかにする調査チーム①による成果であり、これは雑誌、貧困研究に掲載され、社会住宅の意味付けについての議論は引き続き今後の課題となっている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
最大の成果は、共同調査チームによる研究成果が、書籍となったことにある。日本型ジェントリフィケーションのありようを追究するという最大の課題(テーマ③、そして実態論的にはテーマ②)に対して、この分析枠組は、少なくとも大阪のインナーシティにおけるリノベーションを理解にはあてはまらないことが明らかとなった。社会的な差別に基因する土地差別に規定された地価の低位固定という、西日本独特の土地差別の影響で、東京、首都圏大都市のインナーシティよりもはるかに低い地価が、まちづくりに大阪的な特質を色濃く与えているが明らかとなった。 具体的には、戦災、非戦災の有無と、まちづくりの主たるテーマあるいは売りとしての、居住環境改善、昭和ノスタルジーの活用、地域アイデンティティの活用、大地主主導で「絵描き」、という要素でのクロスで8類型のまちづくりが、現実に大阪のインナーシティで進行していること。特に焦点が当てられた地域は、北区中崎町、生野区猪飼野地域、西区堀江、此花区梅香・四貫島、住之江区北加賀屋であった。同時並行で進めている地価分析から、路地での地価も含め、東京の地価の高さが際立っており、同じ文脈の下での東京での分析、検討がこれからの課題となっている。 一方、社会住宅のありようを追究するというテーマ①については、上述の成果から明らかになったことは、インナーシティのユニークなまちづくりの中で、テーマ①に関連する動きは、非戦災で居住環境改善というテーマで、西成区北部、特に北西部において今のところ地域的拡がりをもって進行していることが明らかになった。ここで社会的大家の重要性、社会的不動産業の重要性が明らかとなったが、大阪は後者の比重が強く、この点については、「貧困研究」において明らかにし、東京のような低家賃住宅の不足というよりも、むしろ低家賃住宅の広範な存在と地理的集中という面にあることを結論づけた。
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Strategy for Future Research Activity |
本調査チームの重要課題は日本がジェントリフィケーションの追究と日本での社会住宅の唱導であり、後者が前者を架橋する具体的な資源と当初は考えていた。しかしながら前者の日本型のジェントリフィケーションの実態は、公営住宅にかわる社会住宅化を目指すといった住宅資源の社会化だけではなく、この住宅資源のより多機能なコンバージョンのあり方が確認できたことと、それを突き動かす地域のテーマがより多様であり複雑であることも明らかとなった。 また東京と大阪のインナーシティを取り上げるだけでも地価の水準が大きく異なり、一方では適切な低家賃住宅すら不足している実態と、大阪では生活保護などを利用した低家賃住宅の改修がむしろ低家賃住宅の分厚い蓄積につながっているという根本的な違いが見えてきた。またバックにある東京都と大阪市の財政状況の違いによる政策参与の度合いや政策の背景も大きく異なっていることも明らかとなっている。 したがって今後の研究の推進にあたっては、前者の課題にあたっては、社会住宅の日本的実現にあたっては、西成特区構想と関連させながら西成区北部におけるより詳細な調査と、その先進事例である東京都のふるさとの会をはじめとするホームレス支援断崖が進めている社会的不動業の試みと地域への派生効果に関する集中的に調査を行うことがまず第一点である。 同時に、多様なインナーシティのまちづくりの進行していることが明らかとなっており、低家賃住宅をより主体的に利用するアクターの存在がはっきりしているアート系やそこそこの住宅の文化資源をさらに高める、あるいは小規模で成長性のある自営業の展開のシーズとして、こうした都市内の使える遊休資源の再利用を、インナーシティのまちづくりとして位置付ける調査が進められる。 相互の議論を深めるにあたって、国内外の小規模コロキアムも同時に開催し、研究の方向性の再確認を行ってゆく。
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Causes of Carryover |
調査自体は計画を上回る形で進んだが、フィールドを大阪市にしぼりまた調査チームを構成するメンバー自体も、別途資金を有しており自前で調査を進めたために、経費がほとんどかからないことになった。また調査途上で新たに地価分析を始めることになったが、その対象地域の選定と入力設計に時間がかかり、その取り掛かりが新年度に繰り越した。そのための人件費が未使用となったことが、次年度使用額が生じた理由である。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
調査のひとつ根幹となる、大阪市と東京23区のインナーシティの地価分析について、道路GISデータベースと、路地に至るまでの固定資産税評価のための路線地価の入力の経費に、次年度使用額を主に使う計画に変更した。経年別の変化も見ることができるため、そのデータベース構築は、本研究において大変重要な知見をもたらすと考えている。
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Research Products
(14 results)