2014 Fiscal Year Research-status Report
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25580165
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Research Institution | Chubu University |
Principal Investigator |
河内 信幸 中部大学, 国際関係学部, 教授 (40161278)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | ニューディール / 連邦芸術計画 / グッゲンハイム美術館 / パブリック・アート / アメリカ抽象表現主義 |
Outline of Annual Research Achievements |
ジャクソン・ポロック(Jackson Pollock)が参加した雇用促進局(Works Progress Administration:WPA)の連邦芸術計画(Federal Art Project:FAP)の意義を明らかにし、ポロックがFAPの壁画部門・画架部門に参加して、「形象」と「具象」を動的に融合させた、独自のアメリカ・モダニズムを追い求めたことを明らかにした。しかも、そのアメリカ・モダニズムが、第二次大戦後のアメリカのパブリック・アート政策に影響を与えているという研究上の展望を持つことができた。 このような展望は、FAPの資料やアメリカ抽象表現主義の専門書を分析することによって明らかになるとともに、グッゲンハイム美術館(Solomon R. Guggenheim Museum)、ニューヨーク近代美術館、メトロポリタン美術館からの資料によって得ることができた。特に、ペギー・グッゲンハイム(Peggy Guggenheim)がポロックを見出したことから、初期のポロックはグッゲンハイム美術館との関わりが深く、2015年2月から3月にかけてグッゲンハイム美術館で、ジャクソン・ポロックの資料に関する調査を行った。 その結果、グッゲンハイム美術館資料室(Guggenheim Museum Archive)には、グッゲンハイム美術館の前身にあたる今世紀芸術画廊(Art of This Century Gallery)のものも含め、いくつかの有意義な資料が存在することが分かった。このような資料は、グッゲンハイム美術館資料室(345 Hudson Street, New York)のアーキヴィストから教授していただくことができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
連邦芸術計画(FAP)の最盛期には約5000人以上の芸術家が雇用されたと言われ、彼らは公共施設やコミュニティとの関わりを深めたことが分かった。しかし、ファシズムの脅威と戦争への不安がポロックを苛み、ポロックをブラック・ペインティングの世界へと追い込んでいったことも明らかになった。このような傾向は、ポロック唯一のモザイク画である『無題』(Untitled:1938~41年)が認められず、結局のところ公共施設に展示されないままに終わったことからも見て取ることができる。 ところが、その一方で、ポロックが1941年に制作した『誕生』(Birth)は、黒い輪郭線で大胆に囲んだ中を強烈な原色で塗り込み、ヨーロッパのアヴァンギャルド(前衛芸術)を乗り越えようとしたことも分かる。このような作風が、アメリカの抽象表現主義をヨーロッパに対抗させる契機となったことも考えられる。そして、ポロックによる壁画などの公共空間における大画面へのチャレンジが、都市の公共空間を飾る「パブリック・アート」政策へと道を開くことになったと思われる。 しかし、次のような点にはまだ十分な答えが出せていない状態であり、今後の課題である。第一に、ポロックの芸術性は、1930年代初頭の変形・幻想のイメージにあったのか、それとも1950~53年頃のブラック・ペインティングに求めるべきか。そして第二は、ポロックはヨーロッパのシュルレアリスムの、どのようなところを乗り越えようとしたのか。このような点の解明は、アメリカ抽象表現主義を考える時、非常に重要なポイントであり、アメリカの「パブリック・アート」政策を考察するときのコンセプトにつながる点である。
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Strategy for Future Research Activity |
ポロックは、「抽象」や「具象」という範疇に入らないイメージの原点を求めた芸術家であり、「形象」と「抽象」という二律背反の要素を動的に融合させる独特のアメリカ・モダニズムを目指したと思われる。それは、連邦芸術計画(FAP)に参加した頃のポロックは、アメリカ・インディアンの文化やメキシコの壁画運動から影響を受けていたことからも推測することができる。しかもポロックは、アート・スチューデント・リーグ(Art Student League)で、アメリカ地方主義のトーマス・H・ベントン(Thomas H. Benton)の指導を受けたことも忘れてはならない。 しかし、現在のところ、ポロックの芸術性の原点に関して実証的な分析ができていないため、グッゲンハイム美術館資料室(Guggenheim Museum Archive)のコレクション・リストやコレクション・インデックスを活用して分析を深める予定である。しかも、ポロックを見出したペギー・グッゲンハイム(Peggy Guggenheim)が、イタリアのヴェネツィアで収蔵コレクションを公開したので、財団が管理するヴェネツィア・ペギー・グッゲンハイム・コレクション(Peggy Guggenheim Collection in Venice)からも資料を集める予定である。 さらに今後は、連邦芸術計画(FAP)やアメリカ抽象表現主義が、連邦施設管理庁(General Service Administration)による「連邦政府の新築建設における美術プログラム」(Fine Arts in New Federal Buildings Program)(1962年:ケネディ政権)、全米芸術基金(National Endowment for the Arts)による「公共空間アート・プログラム」(Art in Public Places Program)(1967年:ジョンソン政権)へとつながった資料の分析を進める予定である。
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Causes of Carryover |
平成26年度は、ニューヨークでの調査により、ジャクソン・ポロックが、グッゲンハイム美術館とその全身の今世紀芸術画廊と関わった資料を見出すことができた。しかし、現在のところ、ポロックの芸術性の原点に関して、まだそれらの資料の分析と検証が十分にはできていない。その一方で、連邦芸術計画(FAP)に関する資料や情報はデータベース化されているものが多く、必ずしも調査や資料収集のためにワシントンなどへ出かける必要がなかった。 また、ポロックを見出したペギー・グッゲンハイムが、イタリアのヴェネツィアで収蔵コレクションを公開しているが、財団が管理するヴェネツィア・ペギー・グッゲンハイム・コレクションの資料がまだ入手できていない。このような理由から、次年度に先送りせざるを得ない経費が多く、最終的な論文執筆や学会発表も先送りとなったため、次年度使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
ポロックとグッゲンハイム美術館に関係する資料を分析するとともに、資料リストの作成と印刷を行い、ポロックと連邦芸術計画(FAP)に関する論文の執筆と学会発表を行う。また、イタリアのヴェネツィア・ペギー・グッゲンハイム・コレクションから資料を取り寄せ、ヨーロッパのシュルレアリズムに対する反逆の姿勢を明らかにする。 さらに、連邦芸術計画やアメリカ抽象表現主義が、連邦施設管理庁による「連邦政府の新築建設における美術プログラム」(Fine Arts in New Federal Buildings Program)(1962年:ケネディ政権)、全米芸術基金による「公共空間アート・プログラム」(Art in Public Places Program)(1967年:ジョンソン政権)へとつながった資料の分析を進めていく。そのためにも、平成27年度は、平成26年度研究計画の予算と合わせて使用する予定である。
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Research Products
(6 results)