2013 Fiscal Year Research-status Report
蛍光RNA分子を用いて遺伝子水平転移を検出・解析する新規実験手法の開発
Project/Area Number |
25650131
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Research Category |
Grant-in-Aid for Challenging Exploratory Research
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Research Institution | Kyoto Prefectural University |
Principal Investigator |
小保方 潤一 京都府立大学, 生命環境科学研究科(系), 教授 (50185667)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 蛍光標識核酸 / 蛍光標識RNA / 遺伝子の水平転移 / DFHBI |
Research Abstract |
申請者らは,海藻を餌とするウミウシで,海藻のmRNA群に由来するcDNA群が,極端に低い頻度ながら,ウミウシの卵塊中に移動・出現するという新規な「遺伝情報の水平転移」を発見した。本研究の目的は,このような遺伝子配列の生物種間水平移動をリアルタイムで検出・解析するための新しい核酸蛍光標識実験系を開発することである。この研究の特色は、GFPなどのような蛍光タンパク質をレポーターとして利用するのではなく、核酸配列そのものを直接蛍光分子によって標識し、それによって生体中での核酸の挙動や移動を直接検出しようと企図していることである。具体的には、2011年に米国コーネル大学のJeffery博士らによって報告された「蛍光を発する機能性RNA分子(Paige et al. 2011)」の基盤技術を応用し,被食者(海藻・植物)の細胞内で蛍光RNA分子を産生させ,その核酸配列がどのようなプロセスを経て捕食者(ウミウシ・草食性動物)の体内組織や卵塊中に移動・出現するのかを、蛍光を利用して検出・追跡・解析できる実験手法の開発を目指している。 初年度は、まず、RNA分子の蛍光標識の基礎技術から検討を始めた。その結果、Paigeらによって報告された蛍光RNA配列(spinachと命名されている)のコア部分の87塩基部分を化学合成して、in vitro および 大腸菌体内での蛍光強度を検討した。しかし、得られた蛍光強度が当初予想ほど高くはなかったため、改良型の蛍光RNA配列(spianchII)を用いてRNAの構造や vivo での安定性の影響等を検討したところ、菌体内での蛍光を検出・観察することに成功した。そこで、これらの配列を植物の系で利用するための各種コンストラクトやベクターの作成を進めており、それらが整い次第、植物・海藻での条件検討を進める予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究で用いるRNAの蛍光標識法は、米国コーネル大学のJeffery博士らによって報告された「蛍光を発する機能性RNA分子(Paige et al. 2011)」の基盤技術を利用している。この技術は、蛍光基質であるDFHBI (3,5-difluoro-4-hydroxybenzylidene imidazolinone) が適当なRNAループに包摂されたときにのみ蛍光を発する性質を利用しており、蛍光強度は、同分子の蛍光能と、包摂するRNAループの配列・構造や安定性等によって決定される。また、植物の系でこの技術の適用可能性が検討された例はまだない。さらに、この技術を遺伝子の水平転移の研究に広く応用するには、生細胞中におけるDFHBI-RNAの発する蛍光を生物系研究室に備えられている一般的な蛍光顕微鏡で検出出来ることが望ましい。そこで、本研究では同分子の発する蛍光強度の基礎的な検討から研究を始めたが、筆者らの研究室ではなかなか思った様な蛍光強度がえられなかった。そこで、Jeffery博士らのオリジナルなコンストラクトを入手するなどして、実験・検出条件の再検討を進め、ようやく細菌細胞内での蛍光を検出出来る基盤条件が整った。このため、当初予定していた植物用の蛍光ベクターの設計や作成がやや遅れ、それがそのまま初年度の研究進捗の遅れにつながった。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、以下の諸項目について実験的な検討を進め、「蛍光RNA分子」を用いた「遺伝子水平転移の解析手法」についての基礎的技術を確立する。 (1)ハネモ・植物用の蛍光RNA発現コンストラクトの作成と検討:初年度に引き続き、高等植物および海藻のハネモの核で転写されるように設計された発蛍光RNA配列のコンストラクト群を作成する。次いで、得られたコンストラクト群をパーティクルガンを用いて高等植物とハネモにそれぞれ導入し、発色団化合物 DFHBIを投与して「DFHBI-RNA蛍光分子」による vivo での蛍光を蛍光顕微鏡で観察する。必要に応じて、細胞抽出液の蛍光強度の測定などを行い、各コンストラクトRNAの発蛍光効率等を検討し、植物・藻類における発蛍光効率の高いRNAコンストラクトと実験条件を選び出す。 (2)植物・ハネモの安定形質転換体の作成:上記で検討した発蛍光RNA配列の遺伝子をシロイヌナズナに形質転換し、形質転換植物を作成する。海藻類ではこれまで安定形質転換体の作成は殆ど報告されていないが、筆者の研究室では、現在、ハネモの安定形質転換法の開発を進めており、この技術に目途がつけば、ハネモについても蛍光RNAを発現する安定形質転換体を作成する。 (3)植物体およびハネモ藻体中での蛍光RNAの動態解析:トランジェント発現系および安定形質転換体を用いて蛍光RNAの動態解析を進める。 (4)蛍光RNAを用いた遺伝情報の初発的水平転移の検出実験:蛍光RNAを発現しているハネモをウミウシの一種であるコノハミドリガイに餌として与え、ウミウシ体内で蛍光RNA分子の動態の観察を試みる。さらにこれらのウミウシを産卵させて、卵塊や幼生での蛍光シグナルの検出を試みる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
植物や藻類でその効果を検討するRNA蛍光標識コンストラクト群について、作成やクローニングを完了できなかったものがある。それらを用いた実験に必要な経費については、基金化して次年度に持ち越し、次年度に本来の研究の完遂のために使用することにした。 蛍光標識用のコンストラクトや合成遺伝子の作成費用、それらの遺伝子の発現を調べるための諸費用、さらにはそれらの蛍光標識配列の異種生物間の移動の解析、またそれらの実験に用いる生物(ウミウシなど)の採集・飼育費用に充当する。
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