2013 Fiscal Year Annual Research Report
重イオン研究所におけるη′中間子原子核の高統計測定
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25707018
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
藤岡 宏之 京都大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (30513395)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | ハドロン物理学 / 中間子原子核 / エータプライム中間子 |
Research Abstract |
ドイツの重イオン研究所において、(p,d)反応を用いたη′中間子原子核の分光実験を計画している。η′中間子は擬スカラー中間子の1つであるが、軸性量子異常の効果によってπ中間子などと比べて非常に大きな質量を有するのが特徴である。一方で原子核などの有限密度中ではカイラル対称性の部分的回復によりη′中間子の質量が減少することが理論的に示唆されている。そうであればη′中間子が原子核に束縛したη′中間子原子核が存在する可能性があり、η′中間子原子核の分光実験を通じてη′中間子の質量変化を探るのが本研究の目的である。 この実験では大強度の陽子ビームを炭素標的に照射し、核破砕片分離器によって重陽子の運動量を解析することで欠損質量スペクトルを得ようとしている。膨大にあるバックグラウンド過程の寄与に対して、η′中間子原子核はS/N比が高々1/100の微小なピーク構造しか作らないため、高分解能かつ高統計の測定が要となってくる。高統計を実現する一つの有力な手段としてデータ収集システムの高速化が挙げられる。 そのうち重陽子の飛跡を測定する多芯ドリフトチェンバーの読み出しの高速化について、高エネルギー加速器研究機構のBelle-II実験の円筒型ドリフトチェンバーに採用される一体型読み出しボードの導入を検討している。実際の運用では10枚単位の読み出しボードからのデータを束ねる必要があるため、J-PARCハドロンホールのデータ収集システムに実際に用いられているトリガー配布システムと互換性のあるモジュールを新たに導入することにし、そのための仕様策定に携わった。 また、実際にドリフトチェンバーと一体型読み出しボードを接続し、宇宙線や線源を用いた信号の読み出しも行い、少なくとも単体では所定通りの動作をすることを確認した。またテストパルスにより高レート下における振る舞いについても調べた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
市販されている一体型読み出しボードを用いて多芯ドリフトチェンバーからの信号の読み出しに成功し、読み出しボードの振る舞いについても理解を深めつつある。また、トリガー配布システムに新たに対応した一体型読み出しボード6枚とトリガーモジュールを購入し、多芯ドリフトチェンバー6面からの信号を同時に読み出すシステムの構築に向けて準備を進めている。 一方、重イオン研究所における最初の実験のビームタイムが2014年夏に確定し、そのための検出器の準備も順調に進んでいる。そのビームタイムでは、実際にどの程度のトリガーレートを想定することになるのかなどの定量的評価及び実験環境下で読み出しボードが正しく機能するかどうかの確認試験も行う予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
2014年夏に行われる重イオン研究所における実験に向けて準備を進める。ビームタイムにおいては、η′中間子原子核の最初の分光実験のためのデータ収集を行うと同時に、将来の高統計測定に向けた詳細な検討に必要な情報を取得する予定である。 また、トリガー配布システムを取り込んだデータ収集システムを構築した上で多芯ドリフトチェンバーの6面の信号を同時に読み、宇宙線やベータ線の飛跡を正しく再構成できることを確認する。さらに線源を用いて比較的高いトリガーレートでも問題なく同期の取れたデータが取得できるかなどについても詳細に調べる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
一体型読み出しボードとトリガーモジュールを用いたデータ収集システムの開発と、ドイツ・重イオン研究所における2014年夏の実験の準備を並行して進めている。本年度の後半はドイツ・ユーリヒ総合研究機構における検出器の動作確認のためのテスト実験に専念し、国内でのデータ収集システムの開発を次年度に継続して行うことにしたため。 一体型読み出しボードとトリガーモジュールを用いたデータ収集システムの構築や、2014年夏の重イオン研究所における実験に必要な物品の購入などに充てる。
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