2014 Fiscal Year Annual Research Report
大地震時における建物機能維持を目指した既存杭基礎への耐震補強法の開発
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25709049
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Research Institution | Building Research Institute |
Principal Investigator |
柏 尚稔 独立行政法人建築研究所, その他部局等, 主任研究員 (40550132)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 耐震工学 / 基礎構造 / 杭基礎 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題では、大地震に対する耐震性能が確保されていない既存の杭基礎建物に着目し、その耐震性能の向上を目指して、精度の高い耐震診断法の確立と、地盤改良を利用することにより地震に対して建物の安全性と機能維持性を向上させる耐震改修工法の提案を目的としている。今年度は主として、次の2つの課題を実施した。 ①杭周囲地盤への地盤改良工法(以下、地盤改良併用杭基礎工法)の確立のため、杭周囲に地盤改良を設置した羽根つき鋼管杭の原位置水平載荷実験に対してシミュレーション解析を実施し、地盤改良が杭の水平抵抗に及ぼす影響について分析し、解析のモデル化手法について検討した。東大阪市の原地盤にφ190.7mmの羽根つき鋼管杭を設置し、その周囲1mの範囲を地盤改良した杭基礎に対して水平方向に載荷した実験に対して、汎用の非線形3D-FEM解析ソフトを用いてシミュレーションし、杭周地盤に地盤改良を施すことによって地盤反力係数が増大することを確認し、杭変位の増大による地盤反力係数の変化性状を明らかにした。さらに、地盤反力係数を精度よく算出できれば、Winkler型梁ばねモデルを用いても実験を評価できることを示した。 ②地盤改良併用杭基礎工法の対象となりうる耐震性能の高くない杭基礎建物の耐震性能の明確化を目的として、兵庫県南部地震で被害を受けた旧耐震基準で設計された建物を対象として、外柱-杭-基礎梁接合部の部分架構の静的載荷実験を実施した。実験では、被害建物をベースとした基本ケースに加えて、パイルキャップのサイズを大きくして現行設計の仕様としたケース、柱・基礎梁に壁が取り付いたケースを実施し、損傷メカニズムの変化の定性的傾向を分析した。その結果、被害事例でみられたパイルキャップの損傷は、実験では認められず、主たる損傷は基礎梁に集中した。被害対象建物の損傷状況を模擬できなかった原因の解明が今後の重要な課題である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題では目的達成のために、次に示す課題について取り組むことを計画している。 A)動的相互作用を考慮した地震応答解析による既存杭基礎建物の耐震性能評価 B)地盤改良を適用した杭基礎建物の模型振動実験 C)杭周囲地盤に地盤改良を適用した杭の原位置水平載荷実験および解析 D)既存杭基礎の保有性能を把握するための静的載荷実験 E)常時微動測定結果に基づいた杭基礎建物の健全性評価手法の構築 F)地盤改良を適用した実大建物の地震応答解析 このうち、H26年度では、課題A)、D)、E)を実施した。課題A)については、提案する地盤改良併用杭基礎を実際に設計する際に必要となる解析モデルの構築を目的として、原位置での地盤改良併用杭基礎に対する水平載荷実験のシミュレーションを実施し、設計でよく用いられるWinkler型梁ばねモデルにより、実験を評価できることを明らかにしており、目標を達成できていると言える。次の課題は、Winklerばねの非線形性をどのように評価するかということであり、3D-FEMによりデータを蓄積して簡便な設計式を提案することが必要になってくると考えられる。課題D)については、実際の被害事例を再現することができなかったものの、杭頭接合部の耐震性能に関する基本データを収集することができた。今後、被害対象建物の損傷状況を模擬できなかった原因の解明が今後の重要な課題である。課題E)については微動計を使った健全性評価法構築のための準備をしている段階で、課題期間内に評価法を構築することを目指す。
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Strategy for Future Research Activity |
課題A)について、大地震が対象となった場合には、地盤改良併用杭基礎の非線形挙動を設計に考慮することが重要であり、実験で見られた非線形挙動もしくは非線形応答を評価できる解析モデルの構築が不可欠となる。今後も杭基礎-地盤系の非線形相互作用問題に関する実験データを蓄積していく必要があるが、本研究課題では静的実験および動的実験の両方について、非線形相互作用現象を押さえた基本的な実験データが得られている。次のステップは、これらの実験データを解析で評価できるようにすることであり、まずは基本的な解析モデルを用いた分析により、非線形現象を評価するにあたっての解析モデルの限界点を明確にすることが重要と考える。本研究課題では、強非線形現象を評価できる3D-FEM解析を実施しつつ、簡便な解析モデルによる評価手法について検討する。 課題D)について、地震外力として上部構造の地震応答だけでなく地盤変位の影響も加わるため、杭頭接合部の地震時応力は極めて複雑になると考えられる。H26年度では、杭頭接合部の部分架構実験を実施するに当たり、H25年度に実施した杭基礎の地震被害シミュレーションを参考にして載荷方法を決定したが、被害対象建物の損傷状況を模擬できなかったことが重要な課題に挙げられる。さらに地震被害シミュレーションの高精度化を進めて、被害要因分析を実施することが重要であり、加えて地盤改良が杭被害に及ぼす影響を分析することで、杭被害が低減できる地盤改良手法の提案につながると考えられる。
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Causes of Carryover |
当該年度では、杭頭接合部の部分架構実験を実施したが、杭頭接合部の外力条件が極めて複雑になるため、実験前に想定した損傷性状が再現できる保証が少なかった。そのため、実験終了後に引き続き検討することを想定して、予算の全てを実験に費やさない計画としていた。実験結果として、実被害の損傷性状が再現できないという事が生じたため、翌年度以降も、杭基礎の被害要因分析を引き続き実施する必要があると判断し、繰り越した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
新たな実験を実施するための十分な予算は確保できていないが、解析をベースとして、杭基礎の被害要因分析を進める予定である。
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