2013 Fiscal Year Annual Research Report
魚類の生殖細胞における異質なゲノム構成が配偶子形成に与える影響の解明
Project/Area Number |
25712021
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (A)
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
藤本 貴史 北海道大学, 水産科学研究科(研究院), 准教授 (10400003)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 減数分裂 / クローン / ゲノム構成 / 生殖細胞 / 染色体 |
Research Abstract |
平成25年度には、ゲノム倍加時期の特定やゲノム倍加の分子メカニズムを解析するために必須となる二倍体雌性発生クローン系統を、研究室で継代しているクローン系統親魚より良質卵を得ることができたことにより、解析に用いるために十分な量の個体数を作出することができた。また、野外より採捕したクローン系統からも次世代の作出に成功した。また、同時に、アンドロゲン処理による性転換クローン2倍体家系の樹立も行った。しかしながら、クローン4倍体家系の樹立においては、複数回の倍加試験を遂行したが、生残個体を得るには至らなかった。一方、ゲノム削減メカニズムの解析に用いるクローン由来三倍体はA、B系統の雄個体との交配により、AAB家系とABB家系それぞれを樹立した。その際、異種配偶子を用いた対照試験区において特異な精子取り込み現象が観察されるという新規の発見もあった。さらに、系統間での交雑に由来する二倍体AB雑種家系や、三倍体雑種家系(AAB、ABB)の樹立も行った。現在はこれらの家系の生殖特性調査に向けて継続して飼育試験を行っている。生殖腺のより明確なステージングに向けて減数分裂関連遺伝子の発現をもとにした分子ステージングに着手した。減数分裂前・第一減数分裂中・減数分裂後の精子形成に特異的に発現している遺伝子をターゲットとして、それらの遺伝子配列の部分配列を単離した。また、減数分裂関連遺伝子の網羅的な発現解析に向けて、NGSによるRNAseqを各系統とクローン系統の生殖腺を用いて行い、発現遺伝子のリファレンス作成のためのデータを収集した。本データは発現量解析や新規遺伝子単離においての基盤情報となりえる。細胞遺伝学的解析ではA,B系統間で異なるFISHシグナルを示す反復配列を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
計画通りにクローンドジョウの親魚より採卵することができ、解析用のクローン二倍体家系において必要な個体数を準備することができた。また、クローン二倍体系統は雌性発生であるため通常は全雌であるが、性転換処理により雄個体も作出した。さらに、ゲノム削減モデルとなりうるクローンゲノムをベースとし、それぞれの系統のゲノムを一セット余分に持つ異質三倍体家系も計画通りに作出することができた。また、異質ゲノム構成となることにより配偶子形成に不和合性を示すドジョウの系統間二倍体雑種家系、系統間三倍体雑種家系においても予定通り作出することができた。本研究では解析用実験魚が最も重要であるため、多くの種類の家系を樹立できたことは順調に進展していることを意味している。一方、家系の樹立に失敗したクローン四倍体については、今後のクローン二倍体個体からの採卵時には常に誘起実験を実施することによって、最終年度には発現解析実験に供する解析用個体の作出が可能になると考えている。また、組織学的な減数分裂のステージングに加えて、減数分裂関連遺伝子の発現を指標とした分子ステージングの基盤となる複数の候補遺伝子において、それらの全長配列を決定するための部分配列が単離できた。さらに、NGSを用いたRNAseqにより得られた生殖腺で発現している大量の配列データは、生殖腺における発現遺伝子のリファレンス作成を可能にし、ステージングの解像度を上げるための候補遺伝子の部分配列を容易に入手することができる。これは本研究を遂行する上で非常に重要なデータになると考えられる。細胞遺伝学的解析において、ドジョウで単離されていた反復配列を用いたFISHを行うことができたことは、系統間における染色体の構造解析において強力な解析ツールとなることが期待される。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究においてゲノム倍加機構を非常に明瞭に解析するためには、ゲノム構成が同じで倍数性のみが異なるクローン四倍体系統を樹立し、クローン二倍体と比較することがカギになる。しかしながら、初年度のクローン二倍体個体を用いた四倍体誘起試験では、すべての誘起試験でクローン四倍体の誘起に失敗した。これを克服すべく、次年度以降には第二極体放出阻止法に加えて、クローン二倍体に由来する二倍性クローン精子を用いた受精を行うことによってクローン四倍体誘起の確率を高め、解析用クローン四倍体個体の作出に尽力する。しかし、たとえクローン四倍体が誘起できなかった場合においても、通常の両性生殖二倍体個体を用いることによって、クローン二倍体のゲノム倍加現象に関連して発現変動が起こっている遺伝子群の解析はNGSを用いたRNAseqにより可能である。初年度ではクローン四倍体が作出できなかった場合を想定し、今後実験で用いることになるドジョウのA系統、B系統、クローン系統の精巣と卵巣において発現している遺伝子リファレンスの構築に向けて、NGSを用いた発現遺伝子のデータ収集を行った。本データはリードカウントをベースとした遺伝子発現解析において重要なツールになるため、ゲノム倍加モデル個体とゲノム削減モデル個体を用いた網羅的な遺伝子発現解析において使用する。さらにこの発現データから得られた減数分裂関連遺伝子を分子ステージングの候補遺伝子に加え、解像度の高いステージングを行うことにより、ゲノム倍加とゲノム削減の時期を詳細に詰めていくことを目指す。また、細胞遺伝学的解析ではそれぞれの系統の染色体を識別可能なFISHマーカーの単離やGISHの可能性を探り、減数分裂時の染色体動態の解明に資する方法の開発を行っていく。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
申請当初には設備備品に蛍光顕微鏡、デジタルドキュメンテーションシステム、そしてハイスループットマイクロプレートリーダーならびに測定プレートを高額備品として請求し、総額12,339,000円を計上していた。また、消耗品費、旅費、人件費・謝金、その他を合わせて4,661,000円を計上し、合計17,000,000円を予定していたが、初年度の直接経費は科学研究費補助金と学術研究助成基金助成金の総額11,600,000円であった。そこで、初年度には本研究費により高額備品である蛍光顕微鏡とデジタルドキュメンテーションシステムを購入し、残額を消耗品費と旅費に充てた。そして、本年度は前倒しで高額なNGS解析を行った結果、解析用にワークステーションとソフトウェアを準備する必要が生じた。これらは高額であるため、次年度以降の研究に支障が来さないよう、学術研究助成基金助成金の一部を次年度使用額とした。 初年度にNGS解析で得たデータと次年度以降に得られてくるNGSデータを解析するためのワークステーションとソフトウェアの整備に約1,700,000円を平成26年度に追加の設備備品費として充てる。そのため、平成26年度に予定していた消耗品費等に充てる予算割合が減少する。この減少分を補充するために、平成25年度に繰り越した学術研究助成基金助成金の一部を充てる。また、申請書に計上していたハイスループットマイクロプレートリーダーならびに測定プレートと同等の機能を有する設備備品に関しては他研究費より既に調達済みであるため、本研究費による購入は行わない。
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