2013 Fiscal Year Research-status Report
ミネラル欠乏が老化を伴う炎症性疾患に及ぼす影響と防御機構の解明
Project/Area Number |
25750057
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
|
Research Institution | Tokyo University of Agriculture |
Principal Investigator |
井上 博文 東京農業大学, 応用生物科学部, 助教 (10639305)
|
Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
Keywords | 老化 / 鉄欠乏 / 金属トランスポーター / 炎症性疾患 |
Research Abstract |
本研究の初年度計画として、「ミネラル摂取不足が老化に伴う炎症性疾患の発症状態を増悪する」という不透明なポイントを明らかにすることを目的とし研究を遂行した。 試験計画として、20週齢老化促進モデルマウス(SAMP-6)における鉄欠乏食投与(12週間)を介した大腸炎発症機構について解析を行った。具体的な方法として、コントロール食と鉄欠乏食の12週間摂取に対し、大腸炎誘発試薬であるデキストラン硫酸塩(3% DSS)を飲水投与した2群(DSS群およびDSS;FeD群)を設定した。まず、生存率および大腸炎発症リスクについて解析した結果、DSS単独投与群と比較し、DSS+FeD群では、生存率の低下と激しい出血が認められた。続いて、鉄欠乏マーカーである血中ヘモグロビン値(Hb)は、鉄欠乏食を与えた群において、有意に血中Hb値が低下した。大腸粘膜における炎症性サイトカインであるTNF-α、IL-6の遺伝子発現は、DSS群に対し、DSS+FeD群は2倍近く上昇することを明らかにした。また、LC-MS/MS法によるDSS+FeD群で特異的に変動するタンパク質を同定した結果、脳でPeroxiredoxin-1、脾臓でAlpha-actinin-1、腎臓でEndoplasminの発現が特異的に増加していることを明らかにした。 また興味深いことに、通常食(AIN-93)を投与していた12週齢BALBマウス(幼若モデル)に対して、32週齢SAMP-6マウス(老化モデル)の血中ヘモグロビン値が2倍近く高いことを明らかにした。また、詳細な解析を行った結ところ、大腸粘膜における鉄輸送トランスポーターDMT1は、DSS+FeD群で増加、一方で鉄排出トランスポーターFPN1は有意差はなかったが減少傾向が認められた。現在、諸臓器中のミネラル濃度を測定しているところである。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度の計画通り、おおむね研究は順調に遂行されている。本研究では、老化促進モデルマウスである20週齢SAMP-6マウスを12週間の長期鉄欠乏食投与を行うことで、老化時における鉄欠乏状態の作成に成功し、老化時における鉄欠乏状態は大腸炎を劇的に悪化させることを見出すことができた。加えて、鉄欠乏時における大腸炎発症に対する生体防御メカニズムとして、大腸粘膜のみならず、肝臓、腎臓のみならず、脳においても抗酸化酵素群が誘導されることを明らかした。また、当初の計画にはなかったが、幼若期と老化時における大腸粘膜中の鉄輸送および排出分子の遺伝子発現が大きく異なることを明らかにできた点は今後のミネラル欠乏と老化の研究を進展させる上で重要であると考えられる。
|
Strategy for Future Research Activity |
初年度に引き続き、本年度も当初計画通り、研究を遂行していく。本年度は初年度に得られた鉄欠乏状態を培養細胞系に移し、より詳細な遺伝子発現制御メカニズムを明らかにする。具体的な研究推進方策としては、RAW264.7 細胞(マクロファージ)、Hep1c1c-7細胞(肝臓)、CaCO2 細胞(結腸)を用いた解析を行う。特に、肝臓や神経モデルとして使用されている培養細胞株を用い、初年度に得られた鉄欠乏と大腸炎時に増強されるタンパク質を過剰発現およびノックダウンした系を用い、細胞内シグナル伝達を明らかにする。 加えて、当初計画にはなかったが、初年度に幼若マウスと老化マウスの大腸粘膜中鉄取り込み・排出分子の遺伝子発現が大きく異なっていることを明らかにしたことから、再度、再現性を含め、in vivo試験を遂行する。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当初計画において、初年度に老化と炎症を伴った状態を明らかにするために、数十種の遺伝子発現を解析する予定であったが、比較的、予想した関連遺伝子が変動したことから、解析する遺伝子数を減らしたため、未使用額が生じた。 初年度に解析を行わなかった遺伝子発現についても解析を行うこととし、初年度未使用額をその費用として充てることとする。
|