2013 Fiscal Year Research-status Report
明治中期の理科筆記が紐解く日本型科学教育の源流と現代への具現化
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25750071
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
興治 文子 新潟大学, 人文社会・教育科学系, 准教授 (60409050)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 明治中期の高等小学校児童筆記 / 小学校生徒用物理書 / 簡易実験 |
Research Abstract |
明治中期の「理科」教育への転換期における教育実態について,当時の児童・生徒の筆記を基に教育実態を明らかにする目的で,全国各地に残存する筆記の入手および解析を行った. 筆記類は20都府県を調査し,約300弱収集することができた.収集した文献のうち,明治20年代の文献数は98であり,明らかに高等小学校在籍時に記されたと特定できたものが24であった. これら筆記の内訳は,新潟県11,栃木県6,群馬県2,埼玉県,茨城県,広島県,山口県が各1であった.ただし新潟県の文献は,本研究開始前に既に研究を行っていたものである.新たに入手した13の筆記のうち題目が理科ではなかったものは,埼玉県の「理学筆記」と群馬県の生理学であった. 埼玉県の筆記は明治22年に記され,その内容は後藤牧太らの『小学校生徒用物理書』と重複している部分が多くあった.『小学校生徒用物理書』は,当時の最も優れた教科書の1つであるが,その使用実績については完全には明らかになっていない.この筆記に記されていた内容は,同書とかなりの部分が一致しており,筆記は児童が授業を受けてその内容について記したものであることから,明治22年に埼玉県で同書が用いられていたことが明らかとなった. 『小学校生徒用物理書』を記した後藤牧太は,同時期に簡易実験を日本に広めたことでも知られている.同書にも簡易実験が多く記されているため,この筆記に記されていた図を比較することにより,実際に簡易実験が行われていたかどうかを検討した.筆記には図は100余り記されており,明らかに同書とは異なるものも多くあった.同じような実験であっても,用いている実験器具が異なっていたり,内容が分かりやすくなるように工夫されているものがあった.これらの研究結果より,当時の教師は児童に科学概念形成を促すように創意工夫しながら簡易実験を通して教えていたのではないかと考えられる.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
47都道府県のうち,約半数の20都府県の調査を行うことができた.約300ある文献うち,明治20年代のものだけでも約100あるが,明治30年代まで広げて考察することで,地域的にも,時代的にも明治中期の「理科」教育の転換期の教育実態の全国的傾向が俯瞰できるとの見通しができた. また,本研究開始前に入手していた筆記に記載されていた図は,当時出版されていた教科書の図と全く同じものが多くあった.本研究では,埼玉県の明治22年の高等小学校時のうの筆記には参考にしたと考えられる教科書の図とは異なるもの多数あり,実際に実験教育がなされていたのか,またどのような意図で教師が実験を行っていたのかについて検討する大きな手掛かりとなるものであった. 当時の実験教育は,実験器具の輸入記録や簡易実験書の出版ブームがあったことはすでに明らかとなっているが,個々の教師がどのような意図で実験を行っていたのかが明らかになれば,理科教育の教授法についての新しい知見が得られるものと期待される.
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Strategy for Future Research Activity |
明治元年に開港していた港を保有している道県のうち,北海道,兵庫,長崎の調査が未実施のため,今年度はこれらの地域の調査を進める予定である. また,筆記の分析については,本研究申請時は教授内容の質的変化に主眼を置いていたが,実験教育についても明らかにする手掛かりが出てきたため,教授法とあわせて検討を進めていきたい. 現時点までで明らかにしてきた筆記が記された地域は,教育に重点が置かれていた特徴的な地域だった可能性もあるため,より全国的に普遍な傾向を明らかにしてゆく.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
3月末に文献調査および学会参加,文献調査にかかわるアルバイトの雇用を行ったため,現時点の残金109,167円は決算の計上が間に合わなかったものと思われる.年度内の3月末日までに使用したつもりであったが,思い違いにより1円の残金となってしまった. 残金は1円であるため,5月に予定している北海道への文献調査および学会発表で使用する予定である.
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