2014 Fiscal Year Research-status Report
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25750267
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
春日 翔子 慶應義塾大学, 理工学部, 助教 (70632529)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 潜在的運動学習 / 経頭蓋磁気刺激 / 誤差学習 / リーチング |
Outline of Annual Research Achievements |
平成26年度の研究目標は新奇な力場環境下における上肢到達運動学習の両腕間転移の学習定着性を検証することとした。すなわち、ある環境Aを学習した直後に、それと相反する環境Bを学習したとき、Aの記憶が阻害される(逆行性干渉)程度が訓練肢と非訓練肢で異なることを明らかにする。これを検証するためには、まず環境A(時計回り回転力場)と環境B(反時計回り回転力場)での到達運動において、同等の運動学習とその両腕間転移が生じることを担保する必要がある。そこで、被験者にロボットマニピュランダムを使用して環境Aまたは環境Bにおける右腕到達運動を学習させた(実験1)。450回のトレーニング後、環境Aでは力場に対して過剰な補償力を発揮する現象(過剰適応)とそれにともなう軌道誤差がみられた。一方、環境Bではそのような現象はみられず、力場と釣り合う補償力を発揮した状態に適応が収束し、軌道誤差が消失した。さらに、右腕での運動学習にともない左腕に生じる両腕間転移の効果を検証するため、左腕到達運動中に左腕が発揮した力を計測した。その結果、環境Aでは右腕と同方向への発揮力の変化が観察されたが、環境Bでは右腕と逆方向への発揮力の変化が観察された。これは、環境Aでの右腕運動学習は外部座標系で左腕に転移し、環境Bでの右腕運動学習は内部座標系で左腕に転移することを示している。次に、各環境での両腕間転移にかかわる神経基盤を同定するため、経頭蓋磁気刺激法により運動学習中に訓練肢同側一次運動野の神経活動を阻害し、転移への影響を検討した(実験2)。その結果、環境Aでの両腕間転移には経頭蓋磁気刺激の効果はみられなかったが、環境Bでの両腕間転移は経頭蓋磁気刺激によって消失した。すなわち環境Aと環境Bにおける運動学習とその両腕間転移は異なる神経基盤をもつ可能性があるため、これらを逆行性干渉の検証課題として用いることは不適切である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
平成26年度は、新奇な力場環境下における上肢到達運動学習の両腕間転移の学習定着性に関する実験の予備的検討過程で、力場環境の方向により運動学習および両腕間転移の様態が異なることを発見した(実験1)。これは本研究により世界で初めて示されたため、統計的に妥当な被験者数で上記の現象の再現性と妥当性を検証することが急務であると考え、計画を一部変更し、これを達成した。本年度実施した研究の被験者数は20名(2群)である。当該分野における類似研究の一群あたりの被験者数は約10名であることから(Wang & Sainburg, Exp Brain Res 2007, Perez et al., Curr Biol 2007)、論文化を考える上でも妥当な人数であると考えている。 実験1の結果、時計回りまたは反時計回り力場環境での運動学習と両腕間転移は、行動学的・神経生理学的に異なることが示された。そのため、これらを逆行性干渉課題として学習定着性に関する実験に使用することは不適切であると判断し、当初計画していた逆行性干渉課題の実験はおこなわなかった。そこで逆行性干渉課題の実験に代えて、力場環境により運動学習と両腕間転移の様態の差異が生じる原因を神経生理学的に検討することとした。そこで、本年度はさらに経頭蓋磁気刺激を用いた実験をおこなった(実験2)。その結果、訓練肢同側一次運動野が内部座標系における両腕間転移に関与していることが示された。この結果より、時計回りまたは反時計回り力場環境における運動学習の両腕間転移には異なる神経基盤が動員されることが明らかとなり、実験2の目的も達成された。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度までの研究により、力場環境の方向の違い、すなわち、運動中に発揮しなければならない力の方向の違いにより、運動学習および両腕間転移の行動学的様式と神経基盤が異なることが示された。平成27年度は、力場環境で示された力の発揮方向による運動学習および両腕間転移の様式の差異が、異なる種類の運動学習でも共通して生じるのか検討する。具体的には、視覚運動回転変換とよばれる、腕の運動方向に対してバーチャルリアリティ画面上のカーソルの動きが回転して示されるような環境下での到達運動課題を用いる。この課題では、力場環境同様に力の発揮パターンを変えなければ適応できないが、力場環境とは異なり運動の終着点そのものが変更されるため、力場環境と同様の行動学的・神経生理学的現象が生じるかどうかは自明でない。また、本年度までの研究により、訓練肢同側一次運動野が内部座標系における両腕間転移に関与していることが示された。しかし、訓練肢対側一次運動野の機能的関与は明らかでないため、経頭蓋磁気刺激法を用いて運動中に訓練肢対側一次運動野の活動を阻害し、その機能的関与を検討する。 平成27年度はさらに、研究成果を国際学会(Society for Neural Control of Movement)でポスター発表する。また、本研究の結果を論文にまとめ、Journal of Neurophysiology誌等に投稿する予定である。
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Causes of Carryover |
平成26年度は、①両腕間転移の学習定着性を検証、②視覚運動変換課題を用いた両腕間転移に関わる神経基盤の検討、を行う予定であった。しかし、①の過程で学習に用いる力場環境の方向に応じて訓練肢の運動学習および両腕間転移の様式が異なることを発見した。そこで、この現象の再現性と妥当性をさらに詳しく検証する必要があると判断し、当初の計画を変更しさまざまな力場環境における両腕間転移のパターンの検証をおこなった。平成26年度はこれらの新たに計画した実験の実施にあてたため、予定していた国際学会発表1件および論文投稿を中止した。また、平成26年度の研究は研究室内メンバーを対象に無償で被験者を募ることが可能になったため、人件費が発生しなかった。さらに、ソフトウェア側のサポートがOSバージョンアップに対応していなかったため、実験用PCの買い替えはおこなわなかった。これらの理由により、次年度使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成27年度は、平成26年度までの研究成果を国際学会(Society for Neural Control of Movement、チャールストン、アメリカ)にてポスター発表する予定である。そのため、国外旅費として30万円を使用する。また、本研究の結果を論文にまとめ、Journal of Neurophysiology誌等に投稿する予定である。そのため論文校正費、論文投稿費として10万円を使用する。
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Research Products
(1 results)